冬期限定ボンボンショコラ事件 〈小市民〉シリーズ (創元推理文庫)
あらすじ
高校3年の最後の暮れ、河川敷の道路を歩く小鳩くんと小山内さんは対向車に轢かれ、小鳥くんは重傷で長期の入院を余儀なくされるが、犯人は捕まらない。病室で身動きができない小鳩くんは3年前の中学時代にも同級生が同じような交通事故に合い、犯人探しをしたことを思い出す。2人が小市民を志すきっかけとなった事件が明かされ、高校生活の最後になるシリーズ最新刊。
目次
- 序章 小市民空を飛ぶ
第一部 狐の深き眠り
- 第一章 置き手紙によると小佐内さんは
- 第二章 わが中学時代の罪
- 第三章 わたしたち本当に出会うべきだったのかな
- 第四章 小鳩くんと小佐内さん
- 第五章 秘密さがしにうってつけの日
第二部 狼は忘れない
- 第六章 痛くもない腹
- 第七章 乾いた花に、どうぞお水を
- 第八章 幸運のお星さま
- 第九章 好ましくない人物
- 第十章 黄金だと思っていた時代の終わり
- 第十一章 報い
- 終章 小市民は空を飛ばない
感想
【ネタバレ注意】
シリーズ最終刊?
「小市民シリーズ」の最新刊。春夏秋冬と揃ったし、小鳩くんと小山内さんの高校生活ももうすぐ終わりなのでおそらくシリーズもこれで完結する。
小市民シリーズを最初読んだとき、氷菓シリーズに比べてキャラクターが不自然で作り物めいた感じがしたが、読み進むにつれて小山内さんの尖った部分とか、甘いタイトルでありながらほろ苦い読後感(著者共通のものだが)に嵌り次の本を待ちわびた。最後かもしれないのが少し淋しい。
中3の事件
この作品では、冒頭で小鳩くんは交通事故に遭い最後まで入院中という意外な設定だ。いわゆるデッキチェア探偵ということになるが、入院中、小鳩くんは中学時代に起こった同じようなひき逃げ事件を思い出す。
実はその事件で小山内さんと出会って「互恵関係」を結び、中学生とは思えない的確な推理を働かせることになる。しかし結局犯人にはたどり着けなかったばかりか、被害者である同級生を強く傷つけてしまう。
「小市民」を目指すキッカケとなった事件だ。
病室が舞台
中学時代の謎解明は本格的で面白いが、現在は病室にこもりきりの状況で、1回目に読んだ時は正直閉塞感があった。それでも最後まで引き込む構成力と筆力はさすがに米澤穂信氏である。
2度読めば伏線が理解できる。病室でのできごとの中に今回の事件の真相につながる鍵があるのだ。
小山内さんとは後半までメモやモノのやり取りだけだが、メモの言葉やボンボンショコラ、狼のぬいぐるみというのがいかにも小山内さんらしくて笑った。
心揺れるエンディング
事件が解決した後、大晦日の深夜の病室で2人が語り合う場面がしみじみとしていい。この2人のことだし、小鳩くんは不自由な病人だからラブシーンというわけではないが、静かなつかの間今までの出来事を回想する。
浪人することになった小鳩くんに、除夜の鐘がなる去り際、小山内さんが最後に告げる言葉は彼女なりの告白なのだろう。
「それに、なかなか意識が戻らなくて、わたしをとっても不安にさせた。だからその報いがいると思う。来年小鳩くんが来るまでの間に、京都に迷路を作ってあげる」
「おやすみ小鳩くん。わたしの次善。あなたが生きていてよかった。お大事にね。そしてどうぞ、よいお年を」
(「冬期限定ボンボンショコラ事件」より引用)
なんかいい!高校卒業後の2人を暗示していて美しい。
「京都限定〇□▲✕事件」を期待してはいけないか?
全体として
中身が濃くて味わいの深い「秋期限定栗きんとん事件」の発行から既に何年も経っており、続編を待ちわびていた。内容はさすがであり、小山内さんとの出会いや中学時代2人を打ちのめした事件の内容も明かされた。
少し気になったのは、現在と過去の同時進行が少しわかりにくいこと、現在の話の舞台が主に病室だけという閉塞感、現在の事件の設定が偶然過ぎることだろうか。
3年前と同じ場所の同じような事故、3年前の関係者による事故というところまではありだとしても、その先の偶然は現実味がない。
だがそうしたものはあっても、長く続いたシリーズを締めくくるにふさわしく、本シリーズの読者は読まずにはいられない作品だろう。
この作品をおすすめしたい人
- 小市民シリーズが好きな人
- 小市民シリーズを読んでみたい人
※「春期限定いちごタルト事件」から読むべき - 米澤穂信氏の作品が好きな人
- 味わいのある学園ミステリーを読みたい人
著者について
米澤 穂信(よねざわ ほのぶ、1978年〜 )は、日本の小説家、推理作家。岐阜県出身。岐阜県立斐太高等学校、金沢大学文学部卒業。男性。
主な作品
- 〈古典部〉シリーズ
- 「小市民」シリーズ
- 『折れた竜骨』
- 『満願』
- 『王とサーカス』
- 『黒牢城』
- 『可燃物』
著者、主な作品はフリーの百科事典ウィキペディア 米澤穂信 - Wikipedia を参考にした