夜半、雨音で目が覚めた。土砂降りというほどではないが周囲の音がかき消される強い雨である。雨音に混じって人の話し声がする。男の声で誰かと話をしているようだ。
だが今は夜中、人が話をするような時間ではない。何か事件でもあったのかと思う。話し声は続いているが内容は聞き取れない。あるいはノイズからの空耳かとも思ったりする。どちらとも取れる。
人の話し声だとすれば、急病人でも出たのか、あるいは通行人が道端で話をしているのか。
洪水や家がどうにかなるほどの雨量ではないが、人を不安にさせる程度に絶え間なく雨は降り続いている。こんな時地震が起こったら、火事が起きたらどうなるのだろうと急に不安になる。
テレビで他人事のように見ている避難所に自分が行く事態だっていつ起こるかわからない。南関東や首都直下地震だっていつ起きてもおかしくないのだ。
自分が暮らしている平穏な日々は突然に終わる。長い長い苦痛の日々が唐突に訪れる。今あたりまえに過ごしている日常はガラスの城、いや砂上の楼閣に過ぎないのだとも思えてくる。
そんなことを考えているうちにもう話し声は聞こえなくなった。結局何だったのだろう。依然として、雨は隙間なく絶え間なく降り続いている。
※ 地雨(じあめ)とは、同じ程の強さで長い間降り続ける雨のこと。