keepr’s diary(本&モノ&くらし)

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【本の感想】浅倉 秋成「教室が、ひとりになるまで」


教室が、ひとりになるまで (角川文庫)

あらすじ

私立北楓高校で「私は教室で大きな声を出しすぎました。調律される必要があります」という、同じ文言の遺書を残した連続自殺が起きる。垣内友弘は、幼なじみの白瀬美月が告げた「三人とも自殺なんかじゃない。みんなあいつに殺されたの」という言葉と、突然届いた謎の手紙の内容に動かされて、自殺の謎を探るが…。

目次

感想

著者の作品を読むのは初めてだったが、Amazonのベストセラー1位になっていて、評価をみても面白そうなので、学園ミステリーが好きなこともあり読んでみたら大変面白かった。

 

同じ文面の遺書を残した生徒の連続自殺というストーリーに最初から引き込まれる。連続自殺のショックで登校拒否になった幼なじみの美月の「死神が殺した」という告白は、これってホラーかと思わせるが、その後の不思議な能力の話になり、俄然面白くなる。

 

この作品の面白さはいくつあって、連続自殺の謎解きはもちろんだが、高校の在校生4人に代々伝えられる特殊な能力(と言っても地味な能力)という展開がとても面白い。超能力を持ったもの同士が戦う物語は、古今東西面白いが、最近のものでは映画「アベンジャーズ」や、直近では「鬼滅の刃」(相手は鬼ですが)、「呪術廻戦」(こちらも敵が人間ではないが)、岸辺露伴や「ジョジョの奇妙な冒険」のスタンドもその類だろう。

 

ただ、この作品の超能力は地味で、例えば筒井康隆家族八景」「七瀬ふたたび」の心を読む能力や宮部みゆきクロスファイア」の火を付ける能力(いや、これは人を焼き殺すので強力!)が近いけれど、さらに地味で大人しい。傷を治したり幻覚を見せたりするのはそれなりにすごい能力だが、他の作品で戦う超能力者に比べればやはり地味なのかも知れない。

 

特殊能力を持っている生徒はほかに3人いるが、最初のうちは誰なのか、能力が何かはわからない。連続自殺の謎と犯人を捜しながら、主人公以外の超能力者が明らかになる過程は大変面白い。

 

しかし、この作品で一番考えさせられたのは犯人の動機だ。そんな動機で殺人までするかは疑問だが、動機の背景にあるクラス内での人間関係やグループの関係は確かに微妙で難しい。最近は「スクールカースト」というような言葉もあるらしいが、クラスの中で目立っている生徒、中心になっているグループ、発言力の強いグループ、そうした人たちは自分の中高生の時もいたし、当然今もいるのだろう。

 

学生時代、自分は彼らのことを密かに「主流派」と呼んでいた。友人の少なかった自分は決して主流派ではなく、クラスの片隅で斜に構える方だった。この作品を読んで学生時代の苦い感覚を思い出し、「主流派」を疎ましく思う生徒の方に共感してしまった。

 

一方、社会人になって稀に「主流派」的な立場にあったことがあり、グループの中心に位置することの快感や優越感、中心からはずれている人への無意識の蔑視の感覚もわかるような気がする。

 

序列、指揮系統や利害関係がはっきりしている大人の世界と比べて、中高生のクラスの中の人間関係は基本的にフラットだから、素の人間関係、グループの力関係がそのまま現れて、いじめなどは別にしても、クラスの中の人間関係が苦手だった人は自分を含めて多いと思う。

 

全体としてみれば我慢して働かねばならない社会の方が苦労が多いのはもちろんだが、会社や社会は上下関係、利害関係が複雑な反面、素の人間関係が隠されてビジネスライクに対応できて楽な面もある。

 

そんな訳で、この作品を読んで久しぶりに学生時代の自分の苦い気持ちを思い出して、主人公の想いに強く共感してしまった。でも犯人には共感するのは難しいかな。

 

この作品はミステリ―、超能力、クラス内の人間関係などいろいろなものが詰まっていて、とても面白い。著者の他の学園ミステリーもぜひ読んでみたい。『六人の嘘つきな大学生』も面白そうだ。

 

この作品の少し変わったタイトルの意味は最後まで読むとわかる。おすすめの作品です。

 

この作品をおすすめしたい人

  • ほろ苦い学園ミステリーが好きな人
  • 一味違う学園ミステリーを読みたい人
  • 超能力者が登場するミステリーが好きな人

 

著者について

朝倉 秋成(あさくら あきなり、1989年~ )は、日本の小説家。関東在住。2012年12月、第13回講談社BOX新人賞“Powers”で、Powersを受賞した長編『ノワール・レヴナント』でデビュー。2020年、『教室が、ひとりになるまで』が第20回本格ミステリ大賞小説部門と第73回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門の候補作となる。


2021年、『六人の嘘つきな大学生』が第12回山田風太郎賞候補、『このミステリーがすごい! 2022年版』(宝島社)国内編8位、週刊文春ミステリーベスト10 国内部門6位、「ミステリが読みたい! 2022年版」(ハヤカワミステリマガジン)国内篇8位、『2022本格ミステリ・ベスト10』(原書房)国内ランキング4位となる。

 

主な作品

  • ノワール・レヴナント(2012年12月)
  • フラッガーの方程式(2013年3月)
  • 失恋覚悟のラウンドアバウト(2016年7月)【改題】失恋の準備をお願いします(2020年12月)i
  • 教室が、ひとりになるまで(2019年3月)
  • 九度目の十八歳を迎えた君と(2019年6月)
  • 六人の嘘つきな大学生(2021年3月)

著者、作品はフリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』浅倉秋成 - Wikipedia を参考にした。

 

 

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