あらすじ
少女娼婦の美少女バロットは、身を引き受けたシェルに焼死されかけるが、シェルの犯罪を追うイースターとネズミ型万能兵器であるウフコックに助けられ、「マルドゥック・スクランブル09法」に基づき、特殊能力のある人工皮膚をつけて再生する。バロットは、高度な電子干渉(スナーク)能力、驚異的な認識能力、身体能力を身につけ、イースター、ウフコックと共にシェルの犯罪に立ち向かうが、シェルはかってのウフコックの相棒で圧倒的な戦闘力を持つボイルドを雇い、バロットを抹殺しようとする…
目次
- 第1章吸気 Intake
- 第2章混合気 Mixture
- 第3章発動 Crank-up
- 第4章導火 Spark
感想(ネタバレ)
初めて読んだのがかなり前で、確か著者の「天地明察」が話題になる前だと思う。
当時Kindleの作品がまだ豊富でなく、読みたい作品を探していたところ、表紙のイラストに惹かれて読んでみた。中身もかなり濃密な描写があるのがいいです(笑)。
ホットパンツの奥で動き回る男の指を少しずつ濡らしてゆくのがわかった。ブラウスの隙間から差し入れられた手に、少女の呼吸の変化が直接伝わった。少女は黙々とエア・カーの進路設定を入力し続けた。ときおり意図せず小さく呻き声が洩れる様子を男は愉しんでいる。(作品より引用。以下同じ)
黒い革製の服を掲げ、自分の体にあててみせた。タイトな上下で、スカートではなく、ショートパンツだった。デスクの上でウフコックがぼんやりそれを眺め、気の抜けた声を返した
・・・・・
さてこの作品、サイバーパンクというSFのジャンルらしい。
設定も文章も海外のSF小説のようで、最初は内容を理解するのに苦労したが、ストーリ-展開の面白さに引き込まれた。アニメを見ているようで面白い。バロット美少女で強くかっこいいし。
特にバロットが目覚めたあと、スナーク能力で電子機器を自在に操る場面や、イースターの行う訓練で驚異的な射撃技術を発揮する場面は、心が躍ってしまう。どうも自分はこうした信じがたい能力の記述を読むとワクワク感が止まらない。自分の力がないせいだね。
こうだったらすごいなあと思う期待する方にストーリーが進むのが大好きで、読書の醍醐味の一つ。
君の電子攪拌の機能適性は素晴らしい。普通は干渉の速度についていけず精神が参ってしまう。電子的干渉をそのレベルで行えた者は、僕が知る限り、過去たった一人で、(中略)。でも君は正常な意識を保ったまま、ほぼ全身を同レベルにまで加速させている
裁判の場面はパロットの生い立ち心の闇が明かされる。現実にもありそうな設定かもしれない。アクションシーンとこのような動きの少ない静の場面が交錯するので、慣れないとちょっと疲れる。
ボイルドに雇われた畜産組合の殺し屋たちは気持ち悪いし、不快。もう少し抑えてよかったかも。好きな人は好きだろうが。
結局ものすごい能力に目覚めたバロット。戦う場面は、圧倒的な能力を見せ気持ちがいい。
目の前の少女が、弾丸で弾丸を弾いている。こちらが撃った弾を、彼女が撃つ弾で防いでいる。それも一度ならず二度までも
この小説は戦闘を楽しむ傾向を見せ始めたバロットに試練を与える。たしかに読んでいて少しやりすぎと思うところもあった。
今までの抑圧を考えると決して無理からぬことだが。
──こんな感じだったんだ。(中略)──男のひとたち、みんな、いつもこんな感じだったんだ
そしてラストでは真の敵が現れ、絶体絶命のビンチに!
「お前は、より多くの虚無を生み出すために造られた。それが、俺たちの存在の結論だ」
この作品はずるい。必ず次の巻買うもんな。
面白いです。
お楽しみに。
第3巻までありますよ!
※ちなみに、登場人物の名前はたまごに関係する言葉だそうです。たしかに、ボイルド、シェル、イースター。ウフコックは半熟、バロットは作品の中に書いてありますね。そう思うと親しみが湧きます。ボイルドも。
この作品をおすすめする人
マルドゥック・スクランブル The 1st Compression─圧縮 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)
マルドゥック・スクランブル The 2nd Combustion─燃焼 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)
マルドゥック・スクランブル The 3rd Exhaust─排気 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)
マルドゥック・シリーズ【合本版】 (ハヤカワ文庫JA)
著者について
冲方 丁(うぶかた とう、1977年2月14日 - )は、日本の小説家、脚本家。日本SF作家クラブ会員。岐阜県各務原市生まれ。4歳から9歳までシンガポール、10歳から14歳までネパールで過ごす。1996年、早稲田大学在学中に『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞し小説家デビュー。早稲田大学第一文学部中退。日本SF作家クラブ会員。『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞、『天地明察』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞、舟橋聖一文学賞、北東文芸賞を受賞、第143回直木賞にノミネートされた。『光圀伝』で第3回山田風太郎賞受賞。小説だけでなく幅広く活動を展開している。
主な作品
- カオス レギオン(2003年2月~2004年12月 富士見ファンタジア文庫)
- ストーム・ブリング・ワールド(2003年3月 MF文庫J/2009年8月 MF文庫ダ・ヴィンチ~2009年10月 MF文庫ダ・ヴィンチ)
マルドゥックシリーズ
- マルドゥック・スクランブル The First Compression 圧縮(2003年5月 ハヤカワ文庫JA/2010年10月 ハヤカワ文庫JA)
- マルドゥック・スクランブル The Second Combustion 燃焼(2003年6月 ハヤカワ文庫JA/2010年10月 ハヤカワ文庫JA)
- マルドゥック・スクランブル The Third Exhaust 排気(2003年7月 ハヤカワ文庫JA/2010年10月 ハヤカワ文庫JA)
- マルドゥック・ヴェロシティ 1〜3(2006年11月 ハヤカワ文庫JA/2012年8月 ハヤカワ文庫JA〜2006年11月 ハヤカワ文庫JA/2012年8月 ハヤカワ文庫JA)
- マルドゥック・アノニマス 1〜5(2016年3月 ハヤカワ文庫JA 〜2020年5月 ハヤカワ文庫JA)
- マルドゥック・フラグメンツ(2011年5月 ハヤカワ文庫JA)
シュピーゲルシリーズ
- オイレンシュピーゲル 壱 〜肆 (2007年2月 角川スニーカー文庫〜2008年5月 角川スニーカー文庫)
- スプライトシュピーゲル Ⅰ〜Ⅳ(2007年2月 富士見ファンタジア文庫〜2008年4月 富士見ファンタジア文庫)
- テスタメントシュピーゲル 1〜3 下(2009年11月 角川スニーカー文庫〜2017年7月 角川スニーカー文庫)
ノンシリーズ
- 黒い季節(1996年6月 角川書店/2006年12月 角川書店/2010年8月 角川文庫)
- ばいばい、アース(2000年12月 角川書店 上下巻/2007年9月 - 2008年2月 角川文庫 全4巻)
- 微睡みのセフィロト(2002年4月 徳間デュアル文庫/2010年3月 ハヤカワ文庫JA)
- 天地明察(2009年11月 角川書店/2012年5月 角川文庫 上下巻)
- OUT OF CONTROL(2012年7月 ハヤカワ文庫JA)
- 光圀伝(2012年8月 角川書店/2015年6月 角川文庫 上下巻)
- もらい泣き(2012年8月 集英社/2015年8月 集英社文庫)
- はなとゆめ(2013年11月 KADOKAWA/2016年7月 角川文庫)
- 十二人の死にたい子どもたち(2016年10月 文藝春秋/2018年10月 文春文庫)
- 戦の国(2017年10月 講談社)
- 破蕾(2018年7月 講談社)
- 麒麟児(2018年12月 KADOKAWA)
- 剣樹抄(2019年7月 文藝春秋)
ほか
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