あらすじ
オカルト誌のライターやアルバイト学生の変死の原因が、過去の投稿原稿にあると知った真琴と野崎は呪いを解くために、原稿にまつわる事実を探っていくが、辿り着いた結論は…。「ぼぎわんが、来る」に続く比嘉姉妹シリーズ第2作。
目次
- 序章
- 第一章 サダコ
- 第二章 ミハル
- 第三章 ユカリ
- 終章
感想
「ぼぎわんが、来る」とは違った展開
「ぼぎわんが、来る」に圧倒されたので、シリーズ次作の本作には大変期待したが、読んでみると予想した展開とはかなり違っていた。
これが良いのか悪いのか咀嚼できていないが、釈然としない終わり方やザラザラした読後感は、想像していたものと違うことは確かだ。
「ぼぎわん」も結末にわずかな不安を残してたがホラー小説とは概ねそんなものだし、「ぼぎわん」には悪戦苦闘の末に呪いを解く爽快感があったが、本作はそうした爽快感がない。
【ネタバレ注意】
真琴は強力な敵に手こずるが、最後は姉琴子が登場して苦戦の末に打ち破る。展開は多少異なるにしてもそんなストーリーを期待していた。
ところが、この作品では呪いを破るには人を殺さなければならないと言う結論に。本作では琴子はメインストーリーには登場せず、ラストに姿を現しただけ。彼女だったら何ができたのかと考えてしまう。
バッドエンディング
結局、真琴は今回も敗北するが、琴子ではなく別のある人の行動により呪いは消滅する。
しかし、呪いの消滅に関連して百人近くの人が死んでしまうというのは、どう考えても、ホラー小説史に残るようなひどい終わり方であり、真琴たちは明らかな失敗である。
「ずうのめ人形」のイメージです…
以上、酷評してしまったが、本作はやはり面白い。作中何度も「リング」や貞子を引用していて、リングのオマージュのようだけれど、リングを意識しながら別の作品になっている。
「リング」では貞子のビデオをコピーして他人に見せビデオの増殖に貢献することが呪いの解除条件になっていたが、この作品では「ずうのめ人形」の原稿を他人に見せても呪いは消えない。「リング」は「らせん」以降展開が予想外のものになっていったが、本作では呪いの構造が複雑で難解だ。
「呪い」を整理してみると
- 呪いの元が生きている人間というと「生霊」を思い浮かべる。生霊を滅ぼすには、元の人間の恨みを晴らしたり、悔い改めさせたりするのが常道なのだろうが、この作品ではもはや呪いは元の人間からも離れているので、そんな方法も採れない。
- 友だちのいない、ホラー好きのいじめられっ子、だが陰湿な弱いものいじめをする、「どうしようもない」女子中学生が、年下の小学生の作った都市伝説の呪いを無意識に現実化し、いじめっ子、父、兄弟を呪いで死なせる。
- やがて、ホラーが大嫌いになった少女は、ホラーの関係者を呪いの対象にしようと、ホラー小説のコンテストに応募する。
- 呪いの本体は地下に潜み、「ずうのめ人形」はその象徴。呪い自体はもう女性の意志から離れているが、女性を媒介にしているので女性が死ねば呪いはなくなる。
そんな構造だろうか。
なんとなくわかったような、でもよく考えるとわからなくなる不可解さも怖さのうちなのだろう。
美晴のこと
琴子の妹で真琴の姉、美晴の小学校時代の話「学校は死の匂い」は、以前、オムニバスのホラー短編集で読んだことがある。いいキャラだと思ったが、ネットで彼女が中学の時に亡くなると知った。
だから、序章を読んですぐ美晴のことが思い浮かんだ。そうか、ここで死ぬのか…と。だが里穂に手を下さず、保健室の外に追い出したのは凛々しくとても格好良い。大人になって成長して三姉妹で呪いに立ち向かう作品を読んでみたかった気もする。
心がザワザワするラスト
終盤の戸波が里穂を追い詰めていく息詰まる会話には痺れる。
戸波は呪いは近くの人を巻き添えにすると知っていたから、自分が呪われる時間に道連れにと里穂の部屋を訪れたのだろう。だが、呪いが地下から上ってきて、高層階までの部屋にいる多くの人を巻き添えにしてしまうとは知らず、大惨事を引き起こしてしまった。知っていたなら自ら里穂を手にかけていたろうに。
不幸な巡り合わせで百人近い人が亡くなるのは、フィクションといえども大変ショッキングな内容だ。藤間の戸波への想いも正直気味が悪い。その気持ちがラストの不気味さにつながる。
冒頭でとんでもないバッドエンディングと書いたのはそのとおりだが、そうしたザラつき感を含めて凄いホラー小説だと思えてきた。
シリーズの次の作品を読むのが楽しみだ。
この作品をおすすめしたい人
- 本当に怖いホラー小説が好きな人
- 都市伝説を題材にしたホラー小説が好きな人
- 「リング」が好きな人
- 「ぼきわんが来る」が好きな人
著者について
澤村 伊智(さわむら いち、1979年11月14日〜)は、日本の小説家、ホラー作家。大阪府生まれ。幼少より、怪談やホラー作品に親しむ。大阪大学を卒業後、出版社に入社。2012年春に退職し、フリーライターとなる。2015年『ぼぎわん』で第22回日本ホラー小説大賞大賞を受賞。同年『ぼぎわんが、来る』と改題し刊行、小説家デビュー。
2017年『ずうのめ人形』で第30回山本周五郎賞候補。2019年『ぼぎわんが、来る』が、『来る』のタイトルで映画化。2019年「学校は死の匂い」で第72回日本推理作家協会賞(短編部門)受賞。2020年『ファミリーランド』で第19回センス・オブ・ジェンダー賞特別賞受賞。
主な作品
比嘉姉妹シリーズ
- ぼぎわんが、来る(2015年10月 KADOKAWA)
- ずうのめ人形(2016年7月 KADOKAWA)
- ししりばの家(2017年6月 KADOKAWA)
- などらきの首(2018年10月 角川ホラー文庫)〜収録作品:ゴカイノカイ / 学校は死の匂い / 居酒屋脳髄談義 / 悲鳴 / ファインダーの向こうに / などらきの首
- ぜんしゅの跫(2021年1月 角川ホラー文庫)〜収録作品:鏡 / わたしの町のレイコさん / 鬼のうみたりければ / 赤い学生服の女子 / ぜんしゅの跫
- ばくうどの悪夢(2022年11月 KADOKAWA)
- さえづちの眼(2023年3月 角川ホラー文庫)〜収録作品:あの日の光は今も / 母と / さえづちの眼
ほか
著者、主な作品はフリーの百科事典Wikipedia 澤村伊智 - Wikipedia を参考にした