keepr’s diary(本&モノ&くらし)

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【本の感想】福澤 徹三「白日の鴉」


白日の鴉 条川署クロニクル (光文社文庫)

あらすじ

製薬会社MRIの友永は電車の中で痴漢の冤罪を着せられ、警察に逮捕される。地元テレビ局の取材中に友永を逮捕した若い巡査新田は、被害者女性と証言した男が知り合いだと知り、冤罪を疑い面識のある老弁護士五味に友永の弁護を依頼する。

痴漢冤罪の被害にあい罪を認めない男が襲われる理不尽な現実とそれに立ち向かう弁護士たちの姿を描く。

目次

一~四六

感想

条川署クロニクルシリーズ

福澤徹三の作品はKindle Unlimitedで「群青の魚」を読んだのが最初で、特別養護老人ホームでの入居老人死亡事件を発端としたこの作品では特養での介護が正確に描かれていて、ディティールのしっかりした作者の力量に感心した。

次に読んだ「灰色の犬」は「条川署クロニクルシリーズ」の最初の巻で、警察内部での謀略やパチンコ店、闇金の実態などが細かく描かれ、ストーリー展開もエンターテイメント性がありとても面白かった。
※ クロニクル:年代記。歴史上の出来事を年代順に表したもの

 

痴漢冤罪の恐ろしさ

本作品「白日の鴉」はシリーズ第2作で、痴漢冤罪にスポットを当てた作品。テレビドラマ化もされている。女性が痴漢にあったと主張する限り、男性はそれが嘘であっても警察、検察は有罪としてしまう痴漢冤罪の恐ろしさがよく描かれている。

女性、特に若い女性は電車で痴漢に合う怖さがあるのだろう。それは男性にはわからない。

一方、痴漢はたとえ女性の誤解、故意であっても、女性側の言い分だけ通ってしまう。男性にとっては極めて理不尽で怖い。

友永を取り調べた検事はこう言う。

「痴漢っていうのはね、被害者の証言だけで有罪になるんだよ」(本作品より引用)

 

全くの冤罪であっても女性が痴漢だと言い張れば、刑法の強制わいせつ罪、軽犯罪法違反、各地方公共団体迷惑防止条例違反の罪のいずれかになる可能性が高い。※

釈放されたければ、罪だと認めるしかないが、公務員や有名企業社員ならマスコミで報道され、社会的に抹殺される。主人公のように認めなければ(真実だから当たり前なのだが)、留置され、拘留され、よほど有能な弁護士がつかなければ裁判でも有罪になる可能性が高い。恐ろしい。

 

冤罪でなく、たまたま電車の揺れで女性の体の一部に接触しても、女性がそれを痴漢だと言い張れば、反論するのは難しいだろう。液の事務所に連れていかれれば警察に通報され逮捕される。逃げれば罪を認めたと言われる。事前に弁護士に連絡するしかないのかな。

痴漢冤罪は弁護士にすぐにご連絡を|現場で役立つ対処法を解説 | 福岡の刑事事件に強い弁護士による無料相談

 

著しい制度の欠陥であるが、被害者である男の声は「低い」から、声を上げるべき人権団体方々は女性、ジェンダー問題に比べてやる気が乏しい。

か弱い女性を守るという古い時代の固定観念と、現代のリベラル・女性目線の居心地悪い潔癖社会が変に重なりややこしくなって、男性にはいかにも住みにくい社会だ。

Q:電車内で痴漢をした場合,どのような犯罪が成立しますか?

A:一般的には、刑法の強制わいせつ罪、軽犯罪法違反、各地方公共団体迷惑防止条例違反の罪のいずれかが成立します。

それぞれの法定刑は、原則として以下に記載するとおりです。
(1)強制わいせつ罪・・・6月以上10年以下の懲役(刑務所で強制的に労役に服させる刑罰)
(2)軽犯罪法1条5号違反・・・拘留(1日以上30日未満の期間、警察施設に拘置する)又は科料(1,000円以上10,000円未満の支払い)
(3)各迷惑防止条例・・・それぞれの地域の迷惑防止条例を参照。東京の場合、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(常習の場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。

一般的には,刑法の強制わいせつ罪,軽犯罪法違反,各地方公共団体の迷惑防止条例違反の罪のいずれかが成立します。|法テラス より引用

 

作品の感想

物語では、友永は真実を主張し続けるが、留置場、拘置所で長期間自由を奪われ苦痛を強いられる。

この物語では、たまたま、正義感の強い若い警官新田が町で被害者を見かけて疑念を持ち、有能な老弁護士が担当し、冤罪の背後に大きな犯罪があったから、どうにか無実の証明ができたが、現実では難しそうだ。

さらに考えると、痴漢に限らず、冤罪を証明するのはいわゆるアリバイくらいしかない。していないという証明は実に難しいのだ。無実の罪で逮捕されたらと思うと、ぞっとしてしまう。

 

作品では、警察での取り調べ、留置者、拘置所の描写が細かく、友永の絶望とひどい苦痛が身に沁みる。また、物語は痴漢冤罪をテーマにしているが、事件の背後に貧困ビジネス医療過誤、殺人事件があり、物語に引き込まれる。

若い巡査新田はシリーズ前作「灰色の犬」にも登場していて、その立場が変わっているのも面白い。

冤罪問題だけではなく、警察内部の実情を含めてエンターテインメント性の高い作品だ。

 

※ 現在、本作品はKindle Unlimitedで読めるので、1ヶ月の無料お試しで読むのもおすすめ。Kindle Unlimitedは以前より好みの本が増えている気がします。

 

この作品をおすすめしたい人

  • 痴漢冤罪に興味がある人
  • 警察小説、弁護士小説が好きな人
  • エンターテイメント性のあるミステリーを読みたい人

 

著者について

福澤 徹三(ふくざわ てつぞう、1962年〜)は、日本の小説家、ホラー作家、推理作家。福岡県北九州市生まれ。高校卒業後、肉体労働、営業、飲食店、アパレルなど、さまざまな職業を経てデザイナー兼コピーライターに転業。プロダクション、広告代理店、百貨店アートディレクター、専門学校講師を経て作家活動に入る。2000年、『幻日』でデビュー。ホラー小説や怪談実話、アウトロー小説、警察小説まで幅広く執筆。2008年『すじぼり』(角川書店)で第10回大藪春彦賞を受賞。2014年『Iターン』で第3回エキナカ書店大賞受賞。

主な作品

  • 『すじぼり』(2006年11月 角川書店 / 2009年7月 角川文庫)
  • 『黒い百物語 叫び』(2009年7月 メディアファクトリー)【改題】怪談実話 黒い百物語(2012年1月 MF文庫ダ・ヴィンチ / 2013年11月 角川ホラー文庫
  • 『Iターン』(2010年8月 文藝春秋 / 2013年2月 文春文庫)※テレビドラマ化・コミック化
  • 『東京難民』(2011年5月 光文社 / 2013年7月 光文社文庫【上・下】)※映画化
  • 『俺たちに偏差値はない ガチバカ高校リターンズ』(2012年12月 徳間書店)【改題・加筆訂正】おれたちに偏差値はない 堂南高校ゲッキョク部(2015年12月 文春文庫)
  • 『灰色の犬』(2013年9月 光文社 / 2015年11月 光文社文庫
  • 『死に金』2013年3月 文藝春秋 / 2016年5月 文春文庫)
  • 『忌談』(2013年6月 角川ホラー文庫
  • 『侠飯』(2014年12月 文春文庫)※テレビドラマ化・コミック化
  • 『白日の鴉』(2015年11月 光文社 / 2018年1月 光文社文庫
    ※テレビドラマ化
  • 『怖の日常』(2016年7月 角川ホラー文庫
  • 『群青の魚』(2018年10月 光文社)
  • 『作家ごはん』(2021年 講談社文庫)
  • 『羊の国のイリヤ』((2020年3月 小学館文庫)
  • 『そのひと皿にめぐりあうとき』(2021年5月 光文社)

※ 著者について・主な作品はフリーの百科事典Wikipedia 福澤徹三 - Wikipedia 等を参考にした。

 

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