あらすじ
「買い物」をテーマに、およそ5年後の近未来を予測する。ショッピングの歴史は「棚の奪い合い」だが、IT技術、ネット環境の発達で実店舗の「リアルな棚」が、スマホの「デジタルの棚」に置き換えられていく。こうした変化の進展により、人々は「買い物をしなくなる」。つまり、店に行くことや、商品の現物を見ること、さらには商品を自分で選ぶという買い物におけるさまざまなプロセスがなくなっていき、「買い物をしている」という感覚さえなくなっていくと著者は予測する。
目次
- はじめに
- 第1章 ショッピング体験の進化で、人々は「買い物」をしなくなる
- 第2章 ショッピングはどう発展してきたのか
- 第3章 リーディングカンパニーたちが目指すもの
- 第4章 さらなる進化、「デジタルシェルフ」へ
- 第5章 「人々が「買い物」をしなくなる未来」の先にあるもの
感想
この本、正直に言うとAmazon Primeで読み放題になっていたので入手したのであるが、最初の方を読んだけで、しばらく忘れていた。
ちょうど読む本がなくなったので読みはじめた。結果、大変興味深かったというのが印象。著者の見方に多少疑問は持ちつつ、確かに今後のショッピングの方向性としては間違っていないな、というのが感想である。
著者は、小売店、スーパー、コンビニ、専門店、チェーンストアなど実店舗の変遷も踏まえながら、商品棚が実店舗から、バソコンによってインターネット上に、さらにスマホの普及で手元に移って来た「デジタル・シェルフ」の現象が起こっているという。
そして、買い物について、人が面倒くさく思っている行為が次々になくなって買い物がしやすくなっていくとみる。
まず、店に行く、売り場で商品を探す、持ち帰るという従来の実店舗での買い物の仕方がネットショッピングではなくなった。
そして、ネットでの閲覧履歴等に基づくおすすめの商品の表示などが消費者の購入行動に大きく関わってきていること、消費者はTVコマーシャルよりネットでの口コミやSNSのインフルエンサーの評価などを信ずるようになってきて、将来は商品の選択までもAIが判断するようになると予測している。
ネットショッピングなどについて企業のコンサル業務を行っている著者の見方はたぶん正しく、確かに買い物の形が実店舗からネットへと変化しているのは事実。商品の選び方でも、筆者のいうようにコンピューターを含めた他者依存が進んでいるように思える。
※本書は2019年11月に刊行されたものだが、その後のコロナ禍により、ネットショッピングはより早く進んでいる。
自分もネットショッピングを始めた頃は個人情報、決済など恐る恐る始めたものだが、いつの間にか余り違和感を感じないようになってきたし、本書で指摘しているように、価格.comより直接Amazon、楽天で買う方が多くなったし、商品によりAmazonと楽天を使い分けてもいる。
日用品、飲食品は今のところ実店舗で買うことが多いが、こうした買い物のルートの変化はこれからも続くのだろう。
蛇足だが、自分の実店舗での決済方法も、2019年の消費税増税時のキャッレスポイント付与で頻繁に使用し始めて以降、ほとんどの買い物をキャッシュレス決済で済ますようになり、現金を使うのはキャッシュレス決済ができないところだけになっている。変化というものは一度流れが変わると一気に進むものなのだろう。
一方、購入する商品の決定については、コンピューターや他人の判断に任すのが果たしていいことなのかと考えてしまう。
確かに商品を選ぶのは面倒くさいところがある。例えば家電なら、どの製品が自分のニーズに一番合うのか、性能は優れているのか、耐久性はあるのか、価格は手頃なのか、コストパフォーマンスは良いのか、似たやうな製品の中で、総合的にどれが一番良いいのか等々。
かなり面倒くさく、また、買った後に後悔するのはとても嫌だ。著者も言うとおり、いっそ誰かが選んてくれた方が良いと思うこともあるだろう。
電化製品の比較検討も、真剣に悩み出したら数日かかる。実は「信頼できる誰か」のひと言さえあれば、簡単に購入を決められることもあるのに、膨大な時間を費やす意味は本当にあるのだろうか。(本作品より引用。以下同じ)
だが、そうした悩みを含めて、自分自身の決断なのだ。また、例えば旅行では、旅そのものの楽しみより、あれはこれはと迷いながら、計画している時が一番楽しい。買い物も同じであれこれ迷いながら選んでいる時間は、面倒なようで楽しいのだと思う。
だとしたら、買い物はやはり自分自身で決めるべきではないか。などと考えていると、これって買い物だけのことでなく、人間のあらゆる判断や決断に言えることだとも思えてきた。
エーリッヒ・フロムが「自由からの逃走」で述べているように、人は自由の重さ、孤独の重さ、あるいは判断の重さから逃れるために誰かに判断を委ね、自由を捨て去るという面がある。
だから、買い物に限らず、ネットでの評価やインフルエンサーの言動に影響を受け、自分で考えることが少なくなるネット社会は、とても危ういのだと思う。
話が大きくなってしまったが、本書で言う「買いものをしなくなる」というのは、人が自ら判断をしなくなるということに繋がり、そればまさに同調圧力の高い専制的な社会につながりかねない。それはもうかなり進行している気もするのだ。
本書で書かれた「買い物」の方向性は、恐らくそのとおりであろう。面倒なことはコンピューターや他人に委ねる方に導かれるのは人の性としてやむをえまい。
だが、そうしたことを委ねているうちに、やがて人は政治や社会についても考えることをやめてしまうのではないか。また判断を委ねて余った時間を何に振り向けるのかというと、答えは難しい。本書を読んで、買い物の将来だけでなくそんなことも考えさせられた。
ちまみに、著者も、個人情報が企業に流れること、思考停止状態になるなどのデメリットについて触れている。
もちろん、何事にもメリットとデメリットがあるように、私たちが手に入れるものばかりではない。「いつ・どこで・何を買ったか」という情報は個人のものではなくなり、企業のものとなる。機械任せでいることで思考停止状態に陥りやすくなる。便利になって自由な時間が増えたはずなのに、新しいことに時間を奪われて「前よりも時間がなくなった」という人も出てくるのではないか。
そうしたデメリットをどう捉えるかだが、どんな社会になっても、自分で考えることをやめてしまえば人である意味がなくなる。
自分は「考える葦」であり続けたい、と言ったら格好つけ過ぎだろうか。
この作品をおすすめしたい人
- 今後のネットショッピングの形に興味のある人
- ネットショッピングをよくする人
著者について
望月 智之(もちづき・ともゆき) 株式会社いつも.取締役副社長 東証1部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつも.を共同創業。同社はコンサルティング会社として、現在までのべ9000社以上の企業にデジタルマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの第一人者として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。(本作品より引用)
主な作品
- 「2025年、人は「買い物」をしなくなる」2019年11月
- 「買い物ゼロ秒時代の未来地図――2025年、人は「買い物」をしなくなる〈生活者編〉」2021年1月
⇩本作品