あらすじ
病気のため銀行を退職した「私」は犬探し専門の探偵会社を始めるが、初めて入った依頼は行方不明の孫娘の捜索と古文書の調査だった。押し掛けた剣道部の後輩を雇い調査を始めるが、行方不明の娘には何かのトラブルがあり、正体不明の男も出現する。調査を進めた「私」は驚くべき真相にたどり着く。
目次
Chapter1 ~ Chater7
感想
kindleで昔購入した本をまた読もうと思い、内容が思い出せなかったこの作品を選んだのだが、読み終わって、まだ読んでいなかったのか、読んだが記憶が定かではなかったのかよく分からなくなってしまった。
読んでいる最中は、前者だと思ったのだが、読み終えてみると一度読んだことがあるような気もしてくる。記憶力低下なのか?困ったものだ。
さて、作品は題名から想像されるような(萩原浩の「ハードボイルドエッグ」のような)、犬探しをしているうちに大きな事件に巻き込まれるといったような内容ではなく、良い意味で裏切られる。英語のタイトルの「THE CTADEL OF THE WEAK」(弱者の砦?)の方が内容を表しているようだ。
主人公はアトピー性皮膚炎のため、銀行の仕事を続けられなくなったという設定だが、書かれている症状はかなり深刻で、「アトピーって子どもの病気だろう」というイメージが覆される。
故郷に帰り無気力に暮らしていたが、ようやく何かやってみようと始めた仕事が犬探しの探偵。題名からしてライトノベルっぽいが、シリアスなところがありこちらもいい意味で裏切られる。
全体としてハードボイルドを意識した記述で、行方不明女性の調査をする主人公の「私」と、古文書調査をするヤンキーっぽい部下の「俺」の視点から交互に描かれるが、「俺」が意外にまともでしっかりしていて、ハードボイルドに憧れる少しとぼけたところが面白い。
「俺」の前に謎の男が現れて、
「この件、君では役不足だ。怪我をしないうちに、手を引いた方がいい」「……え?」「忠告はしたぞ」
と憧れの展開になるが、
地下鉄からの風も煉瓦造りの裏通りも、かつんかつんという足音もなかったが。
あの男……。「役不足」の用法が、間違っていたぞ。
(以上、作品より引用)
と想像のようにはならない。
ライト、コミカルではあるものの、メインストーリーである行方不明女性の抱えているトラブルや結末はシリアスだ。ネットでの「荒し」(「フレーマー」と呼ぶことを初めて知った)の怖さ・不気味さやそれを突き止めるチャットでのやり取りなどが、具体的でちょっと怖く、引き込まれる。
「私」と「俺」が調査する二つの物語は終盤で一つに結びつく。明らかになる真相は、題名のイメージを覆して真面目かつ深刻だ。「犬はどこだ」という日本語の題名は損をしているかもしれない。
古文書の調査で明らかになる戦国時代の伝承が結末と結びつくところも絶妙で上手いし、最近のミステリーにありがちな凄惨な描写がないところも気に入っている。続編はまだ出されていないが、出たらぜひ読みたい。
米澤穂信は「氷菓」〈古典部シリーズ〉、「春期限定いちごタルト事件」〈小市民シリーズ〉などの学園ミステリーも面白いのでおすすめです。
この作品をおすすめしたい人
著者について
米澤 穂信(よねざわ ほのぶ、1978年-)は、日本の小説家、推理作家。岐阜県出身。岐金沢大学文学部卒業。学生時代から小説を書き始め、2001年学園ミステリー「氷菓」でデビューし、学園ミステリーや推理小説を執筆。日本推理作家協会賞(2011年「折れた竜骨」)や山本周五郎章(2014年「満願」)受賞のほか、ミステリーランキングの常連。
主な作品
- 「氷菓」〈古典部シリーズ〉(2001年)
- 「春期限定いちごタルト事件」〈小市民シリーズ〉(2004年)
- 「さよなら妖精」(2005年)
- 「インシテミル」(2007年)
- 「追想五断章」(2009年)
- 「折れた竜骨」(2011年)
- 「満願」(2014年)
- 「王とサーカス」(2015年)
- 「真実の10メートル手前」(2016年)
- 「いまさら翼といわれても」(2017年)