あらすじ
長野県警から警視庁捜査共助課へ出向した御子柴刑事が、長野県がらみの事件を解決していく。本業以外に長野の上司や警視庁の同僚から信州や東京の甘味をねだられそちらでも苦労する。担当する事件はどれもいろいろ輻輳する難事件で振り回されるが、上田署の小林警部補のアドバイスをもらい次々と解決していく。各話に登場する信州スイーツがビターな内容に色どりを加える。
目次
- 哀愁のくるみ餅事件
- 根こそぎの酒饅頭事件
- 不審なプリン事件
- 忘れじの信州味噌ピッツァ事件
- 謀略のあめせんべい事件
感想(ネタバレ)
若竹七海の小説は、葉村晶シリーズのようなある意味シリアスな作品と、葉埼、猫島シリーズのような軽快なコージーミステリーに分かれるが、この作品は甘味で着色されているが中身はかなりビターです。
例えば「哀愁のくるみ餅事件」は、長野県上田市で盗難車の中で一酸化炭素中毒で死んだ男が見つかるが、盗難車の近所の兄弟の一人で、この兄弟は同居する母親が具合が悪いのを放置して死なせただけでなく、兄弟を見限って別居した父親を付け狙い…というようなかなり深刻な話。
作品の中に出て「雷電くるみ餅」は実在の商品でこちら。うまそう。↓
公式|道の駅雷電くるみの里ホームページ|長野県東御市:embed:cite]
「根こそぎの酒饅頭事件」も、須坂市の土蔵から高価な収納品を盗み出した事件を追っていくうちに、輻輳して、ほかの事件とつながる。いや、これかなり複雑です。
酒饅頭はこちら ↓
http://www.zenkoji-tsuruya.com/shohin.html
最後の「謀略の飴せんべい事件」は新興宗教を乗っ取った暴力団が、女性信者を暴行して風俗で働かせる、逃げた女性を暴行して死なせてしまうという事件から話が始まる。
そんな物語なので、甘く見て読むと結構疲れます。
若竹七海さんの作品はどれもかなり内容が輻輳、込み入っていて、そこが読みごたえがあるのですが、この作品、イラストや題名のイメージとかなり違います。
でも最後まで読んでしまうのは、物語にお約束で登場する信州の銘菓、スウィーツで気持ちが和むのと、最後に必ず登場して「御子柴くんの話聞いて、なーんかヘンなこと思いついちゃった」と事件の真相を解き明かす小林警部補の名推理。これらの「水戸黄門」的な定型パターンなんでしょうね。
あとがきで若竹さんがこのシリーズ登場の経緯を明かしますが、編集者からの小林警部補のシリーズ化の要望があったからだとか。そういえば、確かに短編集「プレゼント」で娘のセータームーンの自転車に乗って登場するおかしな警部がいましたが、あれが小林警部補だったのか。
そちらをシリーズ化しても面白かったかもしれませんね。
この作品をすすめたい人
単なるコージーミステリーではないので、ユーモアを好みつつ、輻輳した複雑なストーリーも好きな方にお勧めします。
そのほか、
- 信州にゆかりのある方
- スイーツが好きな方
- もちろん若竹七海の本が読みたい方
著者について
若竹 七海(わかたけ ななみ、1963年 - )は日本の作家。東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒。夫は評論家(バカミスの提唱、ミステリ映画の研究で知られる)の小山正。
ミステリ・ランキング
週刊文春ミステリーベスト10
- 2015年 - 『さよならの手口』10位
- 2016年 - 『静かな炎天』11位
- 2018年 - 『錆びた滑車』6位
- 2019年 - 『殺人鬼がもう一人』 17位
このミステリーがすごい!
- 1991年 - 『ぼくのミステリな日常』6位
- 2000年 - 『依頼人は死んだ』16位
- 2016年 - 『さよならの手口』4位
- 2017年 - 『静かな炎天』2位
- 2019年 - 『錆びた滑車』3位
- 2020年 - 『殺人鬼がもう一人』 12位
主な作品
若竹七海シリーズ
葉村晶シリーズ
- プレゼント(1996年5月 中央公論新社 / 1998年12月 中公文庫)
- 依頼人は死んだ(2000年5月 文藝春秋 / 2003年6月 文春文庫)
- 悪いうさぎ(2001年10月 文藝春秋 / 2004年7月 文春文庫)
- さよならの手口(2014年11月 文春文庫)
- 静かな炎天(2016年8月 文春文庫)
- 錆びた滑車(2018年8月 文春文庫)
- 不穏な眠り(2019年12月 文春文庫)
葉崎市シリーズ
- ヴィラ・マグノリアの殺人(1999年6月 光文社カッパ・ノベルス / 2002年9月 光文社文庫)
- 古書店アゼリアの死体(2000年7月 光文社カッパ・ノベルス / 2003年9月 光文社文庫)
- クール・キャンデー(2000年10月 祥伝社文庫)
- 猫島ハウスの騒動(2006年7月 光文社カッパ・ノベルス / 2009年5月 光文社文庫)
- プラスマイナスゼロ(2008年12月 ジャイブ / 2010年11月 ポプラ文庫ピュアフル / 2019年7月 ポプラ文庫)
- みんなのふこう(2010年11月 ポプラ社)
- 【改題・加筆・訂正】みんなのふこう 葉崎は今夜も眠れない(2013年1月 ポプラ文庫ピュアフル)
- ポリス猫DCの事件簿(2011年1月 光文社 / 2013年8月 光文社文庫)
御子柴くんシリーズ
- 御子柴くんの甘味と捜査(2014年6月 中公文庫)
- 御子柴くんと遠距離バディ(2017年12月 中公文庫)
ノン・シリーズ
- 水上音楽堂の冒険(1992年5月 東京創元社)
- 閉ざされた夏(1993年1月 講談社 / 1998年7月 講談社文庫 / 2006年2月 光文社文庫)
- 火天風神(1994年10月 新潮社 / 2000年5月 新潮文庫 / 2006年8月 光文社文庫)
- サンタクロースのせいにしよう(1995年8月 集英社 / 1999年11月 集英社文庫)
- 製造迷夢(1995年8月 徳間書店 / 2000年11月 徳間文庫 / 2014年1月 徳間文庫【新装版】)
- 海神の晩餐(1997年1月 講談社 / 2000年1月 講談社文庫 / 2007年2月 光文社文庫)
- 船上にて(1997年3月 立風書房 / 2001年6月 講談社文庫 / 2007年7月 光文社文庫)
- スクランブル(1997年12月 集英社 / 2000年7月 集英社文庫)
- 八月の降霊会(1998年8月 角川書店 / 2000年8月 角川文庫)
- 遺品(1999年12月 角川ホラー文庫 / 2010年8月 光文社文庫)
- 名探偵は密航中(2000年3月 光文社カッパ・ノベルス / 2003年3月 光文社文庫)
- 死んでも治らない―大道寺圭の事件簿(2002年1月 光文社カッパ・ノベルス / 2005年1月 光文社文庫)
- バベル島(2008年01月 光文社文庫)
- 暗い越流(2014年3月 光文社 / 2016年10月 光文社文庫)
- 収録作品:蠅男 / 暗い越流 / 幸せの家 / 狂酔 / 道楽者の金庫 ※「蠅男」・「道楽者の金庫」は葉村晶シリーズ
- 殺人鬼がもう一人(2019年1月 光文社)
ほか
著者、主な作品の出典:フリー百科事典『ウイキペディア』