あらすじ
郊外の大型ピングセンターで原因不明の多数の死傷事件が起こる。死者69名。目撃者の証言により次々に明らかになる不可解な事実。なぜ事件は起こったのか。なぜ、多くの人がパニックになったのか。事件にあった人たちのその後の運命も変わっていく。
目次
この作品には目次はありません。
感想(ネタバレ)
恩田陸の作品で読んだことがあるのは「夜のピクニック」だけだが、内容が面白そうなので読んだ。
インタビュー、証言形式で事件の内容を追っていくミステリーとしては宮部みゆきの「理由」やミステリーではないが京極夏彦の「死ねばいいのに」、古くは芥川龍之介の「藪の中」など多数あるが、徐々に事件の全体像が解き明かされる面白さがある。
さて、この作品、実は読むのは2度目ですが、1度目の時、なかなか頭が整理しきれなかったので、今回はメモと取りながら読んでみた。
ただ、これ完全にネタバレなので、内容をまだ知りたくない方は飛ばして読んでください。
Q&Aメモ(パートごと)ネタバレ注意
-
38歳男新聞記者 外 事故の原因は不明。火事、毒ガスの声を聞いて走り出し、つられて誰もが走り出した。1階の入口付近でも圧死。死者69名。※犬が吠えなかった。
-
41歳女会社員 4階婦人服売場 奇妙な万引き夫婦が店員を刺すと思い、みんなエスカレーターで逃げる。3階から階段で逃げるが、下からも人が殺到し、3階は骨の音がするほど密集。エスカレーターから人が落ちた感じ。少し空いて階段で脱出。※蝉を食べる人たちの夢 ※悔い改めよ※夫婦は新潟の川で死亡
-
71歳男年金生活者 階段で1階に降りるとき男が入口からは入ってきて、黄色い液体(犬の尿)の袋を踏みつけ異臭がして、みんな逃げだした。階段の上下から人が来て子供が圧死した。少し空いて階段から脱出。冬季オリンピックで勝てない、みんな不安と不満を抱えていた。
-
小学6年女子 1階奥にいて休憩所奥の出口から脱出できた。※コーチ、教頭のわいせつ行為の話
-
Mの元顧問弁護士39歳。事故のビデオを確認後顧問を辞める。ビデオは凄惨な状況。事故の原因は1階の液体以外は写っていない。4階の万引き夫婦以外の他の2箇所でパニックが起きた原因は不明。エスカレーターを通じて恐怖の伝播があったかも。※天井の方を気にしている人がいた。
-
Mの近くの部屋の脚本家は事件と同時刻に逃げる女の子の脚本を書き始めた。※事件の後か不明だがその部屋は携帯がつながらない。※大きな存在による不条理で理由のない大量死
-
奇跡の女の子の詐欺師まがい母親が、被害者家族を投資勧誘し、娘を教祖に宗教団体を作ろうとしている話。
-
Mの救助にあった消防士が、現場の惨状を思い出し、家族の平和が脅かされるのを恐れうあまり家族を殺してしまう話。※何者かの陰謀説。
-
Mのガイドツアーを行っている学生との話。※犬が吠えなかった、携帯が通じない、メールが来る、Mで自殺者がある、被害者遺族がお寺を建てた話など
-
M事件の元調査員のタクシー運転手が、事件は政府機関の実験で予想外に被害が大きくなったと漏らし、政治家の手下に殺される。真偽は不明。
-
殺されたタクシー運転手の友人と2の妻が跡地に開店したショピングセンターで会話。※虫かごの話
-
教祖にされた奇跡の少女の未来と事件当時の事実。
前半(5まで)はオーソドックスにインタビュアー(調査員)が事件にかかわった人たちに聴取していく。そもそも不可解な事件であり、事件の起こった範囲も広いので、読者もなかなか概要をつかみづらいが、事実が次第に判明してくるのはワクワク感がある。
前半までで、事件は同時刻に4階と1階で不可解な事件が起こり、それに集団パニックを起こし、逃げようとして圧死、転落死したたことが判明する。しかし、それ以外の2か所でも同時にパニックが起こっており、それがエスカレータの副抜けを通じた恐怖の伝播だったとの見解はあるものの結局謎だ。
面白いのはインタビューで、事件の事実以外の被聴取者の心理、生活、事件が浮かび上がってくること。例えば、若い世代への憎悪、不倫のうしろめたさ、冬季オリンピックでメダルが取れないことのいら立ち、女児へのわいせつ行為など、いら立ち、怒り、嫌悪、恐怖、悔悟、憎悪という負の感情。
そうしたものを持つ一人一人がこのショッピングセンターでの事件に巻き込まれる。まあ確かに現実の生活でもそうしたぐちゃぐちゃした感情と他人との接触、社会共通の事態(例えばコロナ)が絡まりあって、不条理に世の中が成立しているのだとつくづく思う。
後半は、事件そのものの解明も続いていくが、事件から派生した、事件に振り回された人々が描かれる。
そして、作品も非日常な方向にエスカレートしていきます。前半で描かれた、人々の憎悪、不条理も増幅する。そして新たな事件が生まれてきます。
恩田さんが描きたかったのはこちらの方なのかもしれない。
ただ、オーソドックスに書けば、事件の解明に絞って作品を進めていく書き方もあるでしょうね。
結局謎の部分は残るのでしょうが、奇跡の少女についての事実も、そうしたインタビューから生まれた方が面白かったかもしれません。意見が分かれるところだと思います。
2度読んでも味のある作品でした。おすすめします。
この作品をおすすめする人
- インタビュー形式で事件を解明していく作品が好きな方
- 徐々に事件の全貌が明かされることにワクワクする方
- 不条理な事件を描いた作品が好きな方
- 恩田陸さんの作品が好きな方。
著者について
恩田 陸(おんだ りく、1964年10月25日 - )は、日本の小説家。女性。青森県青森市生まれ、宮城県仙台市出身。
受賞歴
2004年 - 2005年 - 第26回吉川英治文学新人賞、第2回本屋大賞(『夜のピクニック』)
2006年 - 第59回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)(『ユージニア』)
2007年 - 第20回山本周五郎賞(『中庭の出来事』)
2016年 - 宮城県芸術選奨文芸部門
2017年 - 第156回直木三十五賞、第14回本屋大賞(『蜜蜂と遠雷』)
主な作品
1990年代
- 六番目の小夜子(1992年 新潮文庫 書き下ろし)
- 球形の季節(1994年 新潮社 / 1999年 新潮文庫 書き下ろし)
- 不安な童話(1994年 祥伝社ノン・ノベル 祥伝社文庫 / 新潮文庫 書き下ろし)
- 三月は深き紅の淵を(1997年 講談社 / 2001年 講談社文庫)
- 光の帝国 常野物語(1997年 集英社 / 2000年 集英社文庫)
- 象と耳鳴り(1999年 祥伝社 / 2003年 祥伝社文庫)
- 魔術師(書き下ろし)
- 木曜組曲(1999年 徳間書店 / 2002年 徳間文庫 / 【新装版】2019年2月)
2000年代
- 月の裏側(2000年 幻冬舎 / 2002年 幻冬舎文庫)
- ネバーランド(2000年 集英社 / 2003年 集英社文庫)
- 麦の海に沈む果実(2000年 講談社 / 2004年 講談社文庫)
- 上と外(2000年 - 2001年 幻冬舎文庫 全6巻 / 2003年 幻冬舎 / 2007年 幻冬舎文庫 【上・下】)
- puzzle[パズル](2000年 祥伝社文庫 / アンソロジー集『絶海』〔2002年 祥伝社ノン・ノベル〕収録、書き下ろし)
- ライオンハート(2000年 新潮社 /2004年 新潮文庫)
- MAZE[メイズ](2001年 双葉社 / 2003年 双葉文庫 / 【新装版】2015年4月)
- ドミノ(2001年 角川書店 / 2004年 角川文庫)
- 黒と茶の幻想(2001年 講談社 / 2006年 講談社文庫 【上・下】)
- 図書室の海(2002年 新潮社 / 2005年 新潮文庫)
- 睡蓮(アンソロジー集『蜜の眠り』〔廣済堂〕収録、『麦の海に沈む果実』番外編)
- ある映画の記憶(アンソロジー集『大密室』〔新潮社〕収録〕
- ピクニックの準備(「夜のピクニック」の前日譚、書き下ろし)
- 図書室の海(「六番目の小夜子」の番外編、書き下ろし)
- 劫尽童女(2002年 光文社 / 2005年 光文社文庫)
- ロミオとロミオは永遠に(2002年 早川書房 / 2006年 ハヤカワ文庫 【上・下】)
- ねじの回転(2002年 集英社 / 2005年 集英社文庫 【上・下】)
- 蛇行する川のほとり(2002年 - 2003年 中央公論新社 新書判 全3巻 / 2004年 中央公論新社 単行本 / 2007年 中公文庫)
- まひるの月を追いかけて(2003年 文藝春秋 / 2007年 文春文庫)
- クレオパトラの夢(2003年 双葉社 / 2006年 双葉文庫 / 【新装版】2015年4月 双葉文庫)
- 黄昏の百合の骨(2004年 講談社 / 2007年 講談社文庫)
- 禁じられた楽園(2004年 徳間書店 / 2007年 徳間文庫 / 【新装版】2020年3月 徳間文庫)
- Q&A(2004年 幻冬舎 / 2007年 幻冬舎文庫)
- 夜のピクニック(2004年 新潮社 / 2006年 新潮文庫)
- 夏の名残りの薔薇(2004年 文藝春秋 / 2008年 文春文庫)
- ユージニア(2005年 角川書店 / 2008年 角川文庫)
- 蒲公英草紙 常野物語(2005年 集英社 / 2008年 集英社文庫)
- ネクロポリス(2005年 朝日新聞社 【上・下】 / 2009年 朝日文庫 【上・下】)
- エンドゲーム 常野物語(2006年 集英社 / 2009年 集英社文庫)
- チョコレートコスモス(2006年 毎日新聞社 / 2011年 角川文庫)
- 中庭の出来事(2006年 新潮社 / 2009年 新潮文庫)
- 朝日のようにさわやかに(2007年 新潮社)
- 水晶の夜、翡翠の朝(『青に捧げる悪夢』(2013年2月 角川文庫)/『殺人鬼の放課後』(2002年 角川スニーカー文庫)収録)
- あなたと夜と音楽と(『「ABC」殺人事件』〔2001年 講談社文庫〕収録、書き下ろし)
- 冷凍みかん(『GOD』〔1999年 異形コレクション 廣済堂文庫〕収録、書き下ろし)
- 深夜の食欲(『グランドホテル』〔1999年 異形コレクション 廣済堂文庫〕収録、書き下ろし)
- 一千一秒殺人事件(『怪談集 花月夜綺譚』〔2004年 集英社〕収録)
- おはなしのつづき(『飛ぶ教室』2005年夏号)
- 邂逅について(『凶鳥の黒影』〔2004年 河出書房新社〕収録)
- 木洩れ日に泳ぐ魚(2007年 中央公論新社 / 2010年 文春文庫)
- いのちのパレード(2007年 実業之日本社 / 2010年 実業之日本社文庫)
- 夜想曲(書き下ろし)
- 不連続の世界(2008年 幻冬舎 / 2011年 幻冬舎文庫)
- きのうの世界(2008年 講談社 / 2011年 講談社文庫)
- ブラザー・サン シスター・ムーン(2009年 河出書房新社 / 2012年 河出文庫)
- 訪問者(2009年 祥伝社 / 2012年 祥伝社文庫)
- 六月の夜と昼のあわいに(2009年 朝日新聞社 / 2012年 朝日文庫)
2010年代
- 私の家では何も起こらない(2010年 メディアファクトリー / 2013年 MF文庫ダ・ヴィンチ/ 2016年 角川文庫)
- 夢違(2011年 角川書店 / 2014年 角川文庫)
- 私と踊って(2012年 新潮社 / 2015年 新潮文庫)
- 夜の底は柔らかな幻(2013年 文藝春秋【上・下】 / 2015年 文春文庫【上・下】)
- 雪月花黙示録(2013年 角川書店 / 2016年 角川文庫)
- かがみのなか(2014年 岩崎書店)〈怪談えほん〉- 絵・樋口佳絵
- EPITAPH 東京(2015年 朝日新聞出版 / 2018年4月 朝日文庫)
- ブラック・ベルベット(2015年 双葉社 / 2018年7月 双葉文庫)
- 消滅 VANISHING POINT(2015年 中央公論新社 / 2019年1月 幻冬舎文庫 【上・下】)
- タマゴマジック(2016年 河北新報出版センター)
- 蜜蜂と遠雷(2016年9月 幻冬舎 / 2019年4月 幻冬舎文庫 【上・下】)
- 七月に流れる花(2016年12月 講談社 / 2018年9月 講談社タイガ) 書き下ろし
- 八月は冷たい城(2016年12月 講談社 / 2018年10月 講談社タイガ)
- 終りなき夜に生れつく(2017年2月 文藝春秋 / 2020年1月 文春文庫)
- 失われた地図(2017年2月 KADOKAWA / 2019年8月 角川文庫)
- 錆びた太陽(2017年3月 朝日新聞出版 / 2019年11月 朝日文庫)
- おともだちできた?(2017年7月 講談社)〈創作絵本〉 - 絵・石井聖岳
- 祝祭と予感(2019年10月 幻冬舎)
- 歩道橋シネマ(2019年11月 新潮社)
出典(著者以降):フリー百科事典『ウィキペディア』