keepr’s diary(本&モノ&くらし)

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【本の感想】似鳥 鶏「コミュ障探偵の地味すぎる事件簿」


コミュ障探偵の地味すぎる事件簿 (角川文庫)

あらすじ

藤村京はいわゆるコミュ障。大学入学早々、友達作りに出遅れ落ち込んでいると教室に傘の忘れ物を見つける。だが、人と話すのが苦手な藤村は忘れ物をした状況を独力で推理して持ち主を突き止めようするが!?(内容紹介文より)
主人公藤村が天性の推理力を生かして、大学生活で起こる日常生活の謎から深刻な事件まで5つの事件を解き明かしていく。

目次

  • 第一話 論理の傘は差しても濡れる 
  • 第二話 西千葉のフランス 
  • 第三話 カラオケで魔王を歌う 
  • 第四話 団扇の中に消えた人 
  • 第五話 目を見て推理を話せない

感想

※【コミュ障】 元々は言語障害聴覚障害、対人恐怖症など幅広い疾患を含む「コミュニケーション障害」の略語だが、現在では単に「コミュニケーションが苦手な人」「人づきあいが苦手な人」を表すネットスラングとして使われることの方が多い。コミュ障の人間は対人関係におけるプレッシャーに敏感で、会話が苦手で人見知りが強く、特に人前で喋ったり初対面の相手と会話をしたりすることに対して強い恐怖感を抱く。(本作品注釈より)

 

何だこの面白さは!

「彼女の色に届くまで」に引き続き Kindle Unlimited似鳥鶏の作品を読む。

題名からして少し暗い、退屈な小説かと読み込む始めたが、何だこの面白さは!

あいつ固まってる。話しかけてもらいたそうにチラチラ見てる。コミュ障だ。可哀想。あははははは。物欲しそうな顔をしてすでにあちこちできかけている小集団に近寄ればますます笑われる気がするので席を立つことすらできない。だがこのままきょろきょろしつつ座っているだけも痛々しすぎる。(本作品より引用。以下同じ)

 

コミュニケーション障害と自認する主人公の意識や言動に思わず笑ってしまった。自分と似たようなところがあり過ぎる。

同じクラスの顔見知りの人に廊下ですれ違った時、声をかけるべきなのかそうでないのかでいちいち悩む。挨拶の言葉もどれがいいのか分からない。

人との会話が苦手だった。テーマのある会話ならまだしも、とりとめのない雑談、というやつが特に苦手だった。話している間どこに視線を置いたらいいのか分からない。相槌をどのタイミングで入れればいいのか分からない。

 

昔は「コミュ障」などという言葉はなく、対人恐怖症、赤面恐怖症などと言っていただろうか。ちなみに少年時代の雑誌の裏表紙には「治せます!」という少し怪しげな広告が必ず掲載されていたから、こうした症状・性格に悩む人は昔も今も多いのだろう。

要するに他人とコミュニケーションをするのが苦手、一人でいるのが好き、人間嫌いという性格なのだが、自分もそうしたところが多分に未だにある(というか仕事を離れて深まっている)。

だから、「コミュ障あるある」のような記述の連続に、多分、一般人より実感を伴って、思わず笑って(苦笑)しまったのだ。

筒井康隆泉鏡花のような極端に段落の少ない文章も、本当はどうでも良い余計なことをくどくど悩む主人公の雰囲気が出ていてうまいと思う。(一文は短いので読みにくいということはない。)空気を読まない加越さんはいわゆる発達障害なのだろうか。

 

ストーリー

さて、そうした人と関わるのが苦手な主人公が、日常の謎とはいえ事件と関わるのも変なのだが、そこはうまい具合に何事も気にしない(空気を読まない)大食いの美人加越さんや交友範囲の広過ぎる小学時代の同級生里中の助けを得て、不思議な出来事の謎を次々と解いていくことになる。

第一話は教室の忘れた傘の持ち主を推理(加越さんと出会う)。第二話は洋品店の試着室から消えた女子大生の謎(コミュ障の美川さん、皆木さんと出会う)。第三話はカラオケ店で加越さんに酒を飲ませた犯人を突き止める。

祭りの雑踏で財布を擦った犯人探しをする第四話から少し雰囲気が変わる。加越さんは祭りの群衆の前で大声で呼び替え、皆木さんは空手の達人で大立ち回りを行うなど、エンターテインメント色が強くなる。いつもためらいのない加越さんが、実は自分が人と変わっていることを悩んでいると告白する。

パソコンの盗難犯人を推理する第五話では、仲間とともに悪を懲らしめる名探偵になる。主人公のコミュ障の原因や実は社交的すぎる里中も内面では自分はコミュ障だと思っているなど、意外な告白もある。

最初のコミュ障のバカバカしいが実は適確な描写は減るが、エンターテインメントとしてとても面白い。前半の侘しさが減ってちょっと淋しいが。

わがままな仲良しグループを前に、コミュ障の主人公が人が変わったように堂々と「さて」と名探偵の推理を披露する場面はやたら痛快だ。「嫌われてもいい人には気を使わなくていいからコミュ障にはならない」という理屈はよくわかる。たしかに怒る時には何も考えない。

次第に仲間ができていくのは羨まし過ぎる。だって、明るく正しい超美人や無敵の女子大生とお友達になるのだから。

 

続編を読みたい!

原因を自覚してコミュ障がある程度改善された(フロイト理論?)ので書きにくいだろうが、もし続編が出るしたらぜひ読みたい。とにかくコミュ障の自虐ネタがとても面白く痛快。あとがきで著者独特の長くバカバカしいコミュ障的な考察もなんだか面白い。

読む価値がある本。おすすめです。

【参考】「変わりもんは変わりもんで堂々と生きたらよか」by NHK「舞いあがれ!」五島のばんば11/16

 

この作品をおすすめしたい人

  • コミュ障の人
  • 日常の謎ミステリーが好きな人
  • ライト、コミカル、少し真面目なミステリーを読みたい人

 

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著者について

似鳥 鶏(にたどり けい、1981年〜-)は、日本の小説家・推理作家。千葉県生まれ、在住。千葉大学教育学部卒業。北海道大学法科大学院在学中に小説家デビュー。2006年、『理由(わけ)あって冬に出る』で第16回鮎川哲也賞に佳作入選し、2007年に同作品で小説家デビュー。2014年、『昨日まで不思議の校舎』で2014大学読書人大賞の最終候補作となる。

主な作品

市立高校シリーズ
・理由(わけ)あって冬に出る(2007年10月 創元推理文庫)ほか

楓ヶ丘動物園シリーズ
・午後からはワニ日和(2012年3月 文春文庫)ほか

戦力外捜査官シリーズ
・戦力外捜査官 姫デカ・海月千波(2012年9月 河出書房新社 / 2013年10月 河出文庫)ほか
※ 戦力外捜査官シリーズは2014年1月11日〜3月15日、全10話、日本テレビ土曜ドラマ」枠で放送(主演:武井咲

難事件カフェシリーズ
・パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から(2013年9月 幻冬舎文庫)【改題】難事件カフェ(2020年4月 光文社文庫)ほか

御子柴シリーズ
シャーロック・ホームズの不均衡(2015年11月 講談社タイガ)ほか

その他
・彼女の色に届くまで(2017年3月 角川書店 / 2020年2月 角川文庫)ほか

※ 著者について・主な作品はフリーの百科事典Wikipedia 似鳥鶏 - Wikipedia を参考にした。

 

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