知床の観光船沈没からもう3週間経ったとのこと。海保が業務上過失致死の疑いで捜査を進めているし、国土交通省が業務停止(免許取り消し)を検討しているようだ。
当然のことだと思うが、法律上の問題を少し整理してみた。
刑事罰について
海運、旅客関係の法律で刑事罰を課される条文があるかは詳しくないが、刑法の業務上過失致死で捜査がされている模様。
刑法211条業務上過失致死傷等
「 業務上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,5年 以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。 重大な過 失により人を死傷させた者も,同様とする。」
後段は重過失致死傷の規定。今回の件が重過失に該当するかの判断は保留して、いずれにしても刑罰は同じなので、海保もより立件しやすい業務上過失致死傷罪を念頭に捜査しているようだ。
心情的に見ればこの罪に該当するのは当たり前のように感じるが、法律的には条文の「業務上必要な注意を怠り」(業務上の注意義務違反)に該当するかが論点になる。
注意義務違反については、結果発生を予見すべき義務(結果予見義務)や結果発生を回避すべき義務(結果回避義務)があったにもかかわらず、これを怠ったこと、とされている。
今回のケースでは、記者会見で社長が説明していた、「天候が悪くなれば戻るとの条件付きで出港を認めた」(仮にそれが事実であれば)ということが、結果回避義務を怠ったと言えるかどうかが争点だろう(それを見越しての説明かもしれないが)。
直感的には、何も言わずに出港を認めるより、多少は結果回避義務を果たしたとはいえるかもしれない。弁護士なら、天候が悪くなったのに戻らなかったのは船長の責任であり、戻ろうとしたがエンジンが止まってしまい高波に呑まれたのは不可効力だった、との主張もありうるだろう。
それに対しては、そもそも条件付きの出航が事実であったのか、事実であったとしても、漁業者や他の観光船が出港を取りやめた中で1つの船だけ出港したという事実は明らかに結果予見義務が欠如していたと言えようし、不測の場合に他の船から救助してもらえないことや、戻るとしても帰港までのリスクが大きいことなど結果回避義務を何ら配意していないと反論できる。
まして、報道されているように、通信設備が故障し通信手段が携帯電話だけしかない状況(おまけに航路は使用している携帯のエリア外)で船を出したのは、不測の事態に対する認識と対策が著しく乏しいのでは。
(事故当日にアンテナの修理を業者に依頼したというのは、いかにもタイミングが良すぎる気はするのだが、事実は捜査により明らかになるはずだ。)
通信手段に関して日本小型船舶検査機構の了解を得ていたとの主張も予想されるが、検査機構は無論、管理態勢についての国交省の責任も併せて問うべきではないか。
行政処分
観光船の運行は国土交通省の許可事業であるため、許可がなければ営業できない。悪天候が予想される中の出航判断、船員の管理、通信機器の管理、海運旅客業への安全意識の欠如などの安全管理態勢の不備により貴重な人命を失う大事故を引き起こした責任は極めて重く、会社の免許取り消しが予想される。
通信機器の管理についてはほとんど圏外となる携帯電話での申請を認めた検査機構の責任も問われるべきだ。
道義的責任
内心は分からないが、事故から5日後の記者会見まで何の説明や謝罪もせず、記者会見で土下座はしても「お騒がせしたことをお詫びします」と発言する感覚や、言い訳めいた記者会見の内容など、不快感を感じた方は多いだろう。
諸々の判断ミス、管理ミスのために、楽しみにしていた知床観光を悲惨な出来事にしてしまった責任は極めて重いと思う。
自分はかつて観光で知床半島に行ったことがあり、半島の南側からは目の前に国後島が見えた。ウクライナ侵略のために何となく行きにくくなった気もする知床。さらに足を遠のかせるような人災とも言える事故が起こり、地元の方の損失、戸惑いと憤りも大きいだろう。
見るのが辛いのだが、知床遊覧船のホームページには未だ説明も謝罪分もなく、事故にあった観光船KAZU1の紹介を含めて以前のまま掲載している無神経さは何なのだろう。周りにアドバイスする人はいないのだろうか。
少なくとも自分はこの社長が運営するらしい、しれとこ村グループのホテル、観光施設には行く気はしない。
まずは何よりも未だ行方不明の方が早く見つかること、そして亡くなられた方のご冥福を心より祈りたい。