keepr’s diary(本&モノ&くらし)

ネット、読書、音楽、散歩が趣味のおじさんです。趣味、商品、暮らしの疑問、感想を思いつくまま綴ります。

【本の感想】望月 諒子「腐葉土」


腐葉土 (集英社文庫)

あらすじ

高級老人ホームで老女が殺され、仲の悪かった孫が疑われる。弁護士に託した遺言書で孫が相続人となるが、可愛がっていたヘルパーに財産を譲る旨の遺言書のコピーも現れる。関東大震災と空襲を生き抜き戦後の闇市、売春、金貸しで財産を築いた老女の人生に関わる事件の真相を、フリージャーナリスト木部美智子と新聞記者が追っていく。

目次

  • プロローグ
  • 第一章
  • 第二章
  • 第三章
  • 第四章
  • 第五章
  • 最終章

感想

改善したほうが良いのではと思う点も多いが、総合的には星を5つ付けた。荒削りな大作といえばいいだろうか。ともかく物語の奥深さと被害者の老女笹本弥生の過酷な人生描写には圧倒された。

 

話の発端は大正14年関東大震災に遡る。当時幼女だった弥生は本所で罹災し多くの死者を出した被服廠跡の広場で母に連れられ、火炎と竜巻とおびただしい焼け焦げた死者という生き地獄を目の当たりにする。

あたりが急に、一層薄暗くなった。四方から粉塵が重なり合うように空を覆った時、突然突風が吹いた。それは渦を巻いていて粉塵を回りに叩きつけた。粉塵はみるみる火の粉に変わり、火柱となり、渦になりながら人といわず荷物といわず取りついて燃え狂い、その火焰が、ゴーという音と共に空に上がったのだ。 馬が空に吸い込まれるように上がった。 人も、大八車も、布団も、簞笥も。(本作品より引用。以下同じ)

 

さらに昭和20年の東京大空襲では焼夷弾の火炎と冬の極寒の水の中で生き残るが、勤めていた呉服屋の一家は防空壕の中で焼け死ぬ。戦後の闇市では進駐軍の残飯から作ったスープを売り、売春を斡旋し、非情な金貸して大きな財産を築いていく。

 

「あらすじ」のとおり、老女の孫ともう一つの遺言書で相続人とされた孫だと言うヘルパーの男を巡って物語が進んで行くが、特に面白かったのは、ヘルパーの男の素性について美智子と新聞社デスクの亜川が追及していく過程と、本当の孫の行方、そして老女殺人事件の真相が徐々に浮かび上がってくる部分だ。

「この子、うちに勤めてたことあるよ、ほら、この丸顔」 女性は事務所から青い割烹着のような事務服を着た中年の男を呼んできた。男は写真を念力を送り込むように見つめていたが、やがて言った。「この男、(略)

 

自分が好きな推理小説の醍醐味が凝縮されていて、読んでいて心が踊った。

 

さらに、終盤で事件の真相が明らかにされていく中で、あの〇〇〇(ここはあえて隠します)が出てきた時は、そう来たかとうなりながら、周りに人がいるに涙が溢れてしまい、鼻をかむふりをして誤魔化したが、ラストまでそんな状態が続いて困ってしまった。

 

この物語には極めて異常な男が出てくるが、身近にこんな人がいたら精根尽き果ててしまう。こういう人間とは会話が成り立たないし、一見正常に見えるところも怖い。一種のサイコパスなのだろうが、もし責任能力が問えないとしたら恐ろしいことだ。案外身の回りにいそうなのも怖い。

 

結局、老婆殺しの真相は、美智子と亜川が真犯人から直接聞いたとおりだが、裁判で隠された部分があり、美智子も亜川もそれは記事にはしない。最後の文章でそれが将来も明らかにはされないことが暗示されている。

 

著者のミステリーは「蟻の棲み家」もそうだが、意図的に真相が公表されないことが多い。他の人のミステリーでは読者の想像に委ねるような結末も多いが、この物語のように読者には真相が明かされ、ストーリーでは世間に公表されないという結末も味があって良いと思う。

 

残念な部分はかなりある。著者の小説全般に会話部分がやたら長いこと、ところどころで主語の統一性がないのは少し残念だ。

 

この小説に限って言えば、弥生の生涯(大震災、空襲、闇市とその後がほとんどだが)の記述が長過ぎる。事件の真相に関わる内容ではあるが、凝縮すれば分量は半分でも充分だろう。

 

また、最初の方から弥生の物語が始まっているが、事件の解明に従って徐々に明らかになる方が自分の好みとしては良い。もちろん本筋と並行して過去のストーリーが書かれることはよくあるが、本作については、徐々に明らかになる方が流れがよく、インパクトがあるのではないかと感じた。

 

たが、そうした欠点を補って余りあるのが、真相が明らかになる過程の高揚感や感動と、孫の考古学教室の詐欺事件や弁護士の事故死、異常な嘘つき男などプロットの作り込みの見事さで、感服して星5つをつけさせていただいた。

 

読み終わるまでに少し辛抱がいるが、すばらしい作品だと思う。

 

この作品をおすすめしたい人

  • 現在と過去を紡ぐミステリーを読みたい人
  • 本格的、感動的なミステリーを読みたい人
  • 関東大震災東京大空襲に絡む小説に興味がある人
  • ボリューム、読みごたえがある推理小説が読みたい人
  • 望月涼子の作品が好きな人

 

著者について

望月 諒子(もちづき りょうこ、1959年~)は、日本の小説家・推理作家。愛媛県生まれ。兵庫県神戸市在住。

銀行勤務を経て、学習塾を経営。2001年、『神の手』を電子出版で刊行しデビューする。2010年、ゴッホの「医師ガシェの肖像」を題材にした美術ミステリー『大絵画展』で第14回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。

 

主な作品

  • 『神の手』(2004年4月)
  • 『殺人者』(2004年6月)
  • 『呪い人形』(2004年8月)
  • 『ハイパープラジア 脳内寄生者』(2008年1月)【改題】最後の記憶(2011年8月)
  • 『大絵画展』(2011年2月)
  • 『壺の町』(2012年6月)
  • 腐葉土』(2013年4月)
  • 『田崎教授の死を巡る桜子准教授の考察』(2014年4月)
  • ソマリアの海賊』(2014年7月)
  • 『鱈目講師の恋と呪殺。 桜子准教授の考察』(2015年7月)
  • フェルメールの憂鬱~大絵画展~』(2018年11月)
  • 『蟻の棲み家』(2018年12月)
    『哄(わら)う北斎』(2020年7月)

著者、作品の記述はフリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』 望月諒子 - Wikipedia を参考にした。

 

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