keepr’s diary(本&モノ&くらし)

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【本の感想】曽根圭介「鼻」〜 人はなぜ怖い話を聞きたがるのだろう


鼻 (角川ホラー文庫)

あらすじ

人間は鼻を持つテングとブタに二分され、テングはブタに迫害されている。外科医の「私」は、テングを救うため違法なブタへの転換手術を決意する。一方、自己臭に悩む刑事の「俺」は、少女行方不明事件を捜査する中、ある男と再会する……。日本ホラー小説大賞短編賞受賞作「鼻」他二編を収録。

目次

  • 暴落
  • 受難

感想

人はなぜ怖い話を聞きたがるのだろうか。曽根圭介氏の「熱帯夜」が面白かったので、もう一つの短編集「鼻」を読んでみた。こちらも不気味、怖いというか、決して楽しい読後感ではないのだが。

 

「暴落」は悪い事態の連鎖の結果とても気持ちの悪い結末を迎え、「受難」は狂信者や無関心な他人が起こす不条理そのものの話。どちらも絶望的で暗いが、分かりやすい話だ。

 

「鼻」は少し違う。「熱帯夜」に収録されている「あげくの果て」や「最後の言い訳」のような奇妙な社会を描いた話かと思わせて、実は全てが〇〇(あえて伏字にします)だったという物語。このどんでん返しの結末には驚かされる。

 

通常、小説で太字で書いてある部分は本筋でないエピローグ的な部分なのだが、そこに騙された。鼻の形で抑圧されるおかしな社会、彼らに同情する外科医、抑圧に抵抗する団体、時々登場する異常性格の刑事。そんな奇怪な物語の底にもう一つの残酷な真実があったのだ。

 

深淵の底を除くと更に異様な世界が見えるような気持ち悪さで、不条理、悲惨そのものの前の2編とは異なる、ざらつくような不快感がする物語だ。

 

どちらにしても、3編とも決して気持ちの良い話ではない。

 

しかし、本作には不快感とともにある種不思議な快さが存在する。冒頭で書いたように人はなぜか怖い作品が好きなのだ。怖いもの見たさもあるだろう。また、人は光を求める一方、暗黒を求めるものなのかもしれない。話が暗ければ暗いほど、悲惨で不条理であるほど、なんとも言えない高揚感も生まれる気がするのだ。

 

作品を読んで、自分はこれほど不幸ではないと自分の境遇を慰めているのかも知れず、或いは悲惨・絶望的な主人公の境遇にある種マゾヒスティックな快感を覚えるのかも知れない。

 

だが、例えばスプラッターのようにただ残酷で気持ち悪いだけの作品は不快感しかなく本を放り投げるだけだ。ホラー小説でも作品の完成度や文章のうまさがないと上述のような感覚は生まれないだろう。

 

曽根圭介のホラー作品は今まで2冊しか読んでいないが、どちらも上で述べたようなある種の高揚感を感じる。やはり作品の完成度が高く文章がとてもうまいのだ。

 

一方、作者の立場を考えると、こうした暗い作品を書くことは相当神経がすり減り、心が病む作業なのだと思う。作者のホラーの新作がなかなか出されないのはそのためかもしれないが、読者としては、本作や「熱帯夜」のようなシュールな作品が新たに発表されるのが待ち遠しい。

 

それにしても、本当に、なぜ人は怖い物語を読みたがるのだろうか。

 

この作品をおすすめしたい人

  • ホラー小説が好きな人
  • 悲惨な世界を覗き見たい人
  • 不条理な絶望感を味わいたい人
  • 曽根圭介の作品が好きな人

 

著者について

曽根 圭介(そね けいすけ、1967年~)は、日本の小説家。静岡県出身、早稲田大学中退。
静岡県生まれ。早稲田大学中退。25歳までアルバイト生活を続け、ホテル、漫画喫茶の店長などに勤務。36歳で無職になるが、貯金があったため毎日図書館で本を読むという生活を1年続け、その後執筆を始める。短編作品「鼻」が2007年の第14回日本ホラー小説大賞短編賞、同年「沈底魚」で第53回江戸川乱歩賞を受賞。2009年、「熱帯夜」で第62回日本推理作家協会賞短編賞を受賞。2021年「藁にもすがる獣たち」が韓国で映画化された。

 

主な作品

  • 沈底魚(2007年)
  • 鼻(2007年)
  • あげくの果て(2008年)(のちに「熱帯夜」に改題)
  • 図地反転(2009年)(のちに「本ボシ」に改題)
  • 藁にもすがる獣たち(2011年)(のちに「暗殺競売(オークション)」に改題)
  • 殺し屋.com(2013年)
  • TATSUMAKI 特命捜査対策室7係(2014年)
  • 工作名カサンドラ(2015年)
  • 黒い波紋(2017年)

 

※ 著者、主な作品は 曽根圭介 - Wikipedia を参考にした

 

keepr.hatenablog.com

 

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