あらすじ
小市民シリーズ4作目となる短編集。注文したのは3個のマカロンなのに、なぜか皿には4個のマカロンが載っていた。何故?小市民を目指す小鳩くんと小山内さんの推理が冴える表題作「巴里マカロンの謎」など短編4作品を掲載。
目次
- 巴里マカロンの謎
- 紐育チーズケーキの謎
- 伯林あげぱんの謎
- 花府シュークリームの謎
感想
番外編だが内容は本格的
前作までは「春期限定いちごタルト事件」「夏期限定トロピカルパフェ事件」「秋期限定栗きんとん事件」と季節順に書かれていて、時系列が高校1年の春から高校3年の秋までの順序になっていたので、高校1年の秋から1月にかけての本作は番外編となる位置付けだ。
小市民シリーズで短編集と銘打っているのは初めてだが、「秋限定〜」以外は各章が独立した連作短編で終章に繋がっていくというスタイルだったし、本作も3編目を除き、繋がりのある(伏線のある)ストーリーになっているので、今までの作品に比べてさほどの違和感はない。むしろ、従来作よりも一つひとつの作品が、しっかりとまとまっている感じがした。
特に最後の「花府シュークリームの謎」は、いみじくも作中で書いてあるとおり、待ち伏せとか尾行とかの小山内さんが好きな手段でなく、オーソドックスな聞き込みなどを踏まえて、推理がとても論理的で順序立って行われているので、謎解きがとてもわかりやすいのが良い。
「巴里マカロンの謎」
まず、表題作「巴里マカロンの謎」。前作まで地元の町が舞台だったのが、本作では名古屋が舞台。ちなみに、今まであまり意識しなかったが、本シリーズは名古屋から電車で20分の木良市という設定で、岐阜市がモデルらしい。そういえば著者の米澤さんは岐阜県の出身である。ちなみに古典部シリーズは神山市の神山高校が舞台でモデルは高山市とも言われている。
伊坂幸太郎氏の作品の舞台に仙台のものが多かったり、佐々木譲氏の作品も北海道警察の物語が多いように、作家の出身地の地方都市を舞台にする作品は多いが、東京近郊を舞台にするより、味があって良いのでは。
注文したのは3個セットのマカロンなのに、気がつくと何故か1つ増えているという謎を解くのだが、そもそもなぜ小鳩くんともあろうものが、最初に置かれたマカロンの数やその後に数が増えたことに気づかなかったのか、最初は気になった。
しかし、読み返してみたら、最初に置かれたマカロンの数に気が付かなかったのは、自分のカップに紅茶を注いでいたからで、数が増えたことに気づかなかったのは、大きな時計の音がしたからだった。なるほど。辻褄はあっているな。
パティシエの写真、お手拭き、紅茶を注ぐ、通りの時計の音、顔に当たる光など、伏線もたくさんあり、推理も理詰めで面白い。マカロンを目の前に、2人が検討する謎解きは動きが少ないのでやや冗長だが良くできた1編だ。
「紐育チーズケーキの謎」
「紐育チーズケーキの謎」は「巴里マカロンの謎」で知り合い、小山内さんに接近している中学生、古城秋桜(こぎこすもす)の中学の文化祭で遭遇した事件。秋桜が小山内さんを巡り小鳩くんに対抗心を燃やしているのが可愛くないが、小鳩くんの推理はさすが。ただ、ものを隠すのにはリスクが少し大きすぎるかもしれないと思うのは考えすぎか。
「伯林あげぱんの謎」
「伯林あげぱんの謎」は珍しく小山内さんが謎解きに加わらず小鳩くん単独の推理。証言の盲点をついた物語で、途中でなんとなくわかったが、謎解きは本格的で、小山内さんのオチもつく。
「花府シュークリームの謎」
最後の「花府シュークリームの謎」は、最初に書いたとおり、オーソドックスな聞き込みなどの手法を通じて二人が推理を進めていくので、話が整理され気持ちよく、納得感がある。これいいなあ。今までのシリーズの作品の中で一番面白いかもしれない。
「小市民シリーズ」は主人公ふたりのキャラが面白いし、ストーリーも大変引き込まれるのだが、謎解きが多少強引かなと思うところもあった。推理の答えに、蓋然性はあるが必然性まではないのではと思えるところもある(そう言ってしまうと、ほとんどの推理小説がその傾向があるのですが…)。そんな中本作品は推理に引っかかるものがなく、爽快で面白かった。特に、合成写真の作者を突き止める推理が素晴らしい。
米澤穂信の「小市民シリーズ」の新作は11年ぶりで、ファンにはたまらない作品だ。時系列的なことや「〇期限定」という冠がついていない点は今までの作品とは少し違うが面白さは変わらない。前述のように、編ごとの独立性が強めで推理がわかりやすい点は今までよりもバージョンアップしている。
スイーツが食べたくなってしまうのも変わらず、ダイエット中の人には罪作りだ。
この作品を読んでから過去の3作を読むのか、まず過去の3作を読んだほうがいいのか、薦めるのに迷ってしまうが、どちらもありですしょう。面白いことは間違いない、おすすめの作品です。
この作品をおすすめしたい人
- ビターでスイートな学園ミステリーを読みたい人
- 学園ミステリーでしっかりとした推理モノを読みたい人
- 「小市民シリーズ」が好きな人
- 米澤穂信の作品が好きな人
著者について
米澤 穂信(よねざわ ほのぶ、1978年-)は、日本の小説家、推理作家。岐阜県出身。岐金沢大学文学部卒業。学生時代から小説を書き始め、2001年学園ミステリー「氷菓」でデビューし、学園ミステリーや推理小説を執筆。日本推理作家協会賞(2011年「折れた竜骨」)や山本周五郎章(2014年「満願」)受賞のほか、ミステリーランキングの常連。
主な作品
- 「氷菓」〈古典部シリーズ〉(2001年)
- 「春期限定いちごタルト事件」〈小市民シリーズ〉(2004年)
- 「さよなら妖精」(2005年)
- 「インシテミル」(2007年)
- 「追想五断章」(2009年)
- 「折れた竜骨」(2011年)
- 「満願」(2014年)
- 「王とサーカス」(2015年)
- 「真実の10メートル手前」(2016年)
- 「いまさら翼といわれても」(2017年)