keepr’s diary(本&モノ&くらし)

ネット、読書、音楽、散歩が趣味のおじさんです。趣味、商品、暮らしの疑問、感想を思いつくまま綴ります。

【本の感想】曽根 圭介「熱帯夜」~ ダークでシュールでパロディ満載の不思議な短編集


熱帯夜 (角川ホラー文庫)

あらすじ

取り立て屋のヤクザに脅され、期限を切られて金策に走る夫婦と主人公の運命を描く「熱帯夜」、高齢者徴兵制度下の過酷な社会で生きる人々の悲劇「あげくの果て」、蘇生者のはびこる世界の先行きを描いた「最後の言い訳」の三編の短編集。

目次

  • 熱帯夜
  • あげくの果て
  • 最後の言い訳

感想

角川ホラー文庫の作品だが、オカルト、サイコのホラー小説ではない。なんと言っていいか…ネットのレビューでは後味が悪くはないという書き込みもあるのだが、良くはない。感動するとか目が潤むとか、ゲラゲラ笑うとかいう範疇の作品でもない。だが不思議な味わいの作品だ。

読んでいて連想したのが、筒井康隆ハチャメチャ・ナンセンスなパロディ小説なのだが、筒井のような突き抜けたバカバカしさや狂気とも違う。小松左京の「日本沈没」などのほろ苦く深刻なSF小説筒井のパロディ風味をつけた感じかもしれない。

 

「熱帯夜」

タイトル作の「熱帯夜」はヤクザの取り立て屋に返済を迫られる夫婦の緊迫した様子と、山道でひき逃げを起こしてしまう「ワタシ」が、並行して描かれ、最後にはシリアルキラーによる連続女性殺人事件も交えて一つに収束する。

 

太った体をジャケットに押し込みながら、藤堂は「悪いが、車を貸してくれないか」とボクに頼んできた。そういえば別荘の前の駐車場に、ご自慢のシルバーグレーのベンツが停まっていなかった。車すら現金に換えねばならぬほど、藤堂の会社は資金繰りに困っていたらしい。(本作品より引用。以下同じ)

 

ストーリーが気持ち悪いくらいに繋がりまとまっており、結局、悪い奴は破滅するのだが、ヤクザの大男が気持ち悪いので、少し読後感を悪くしているかもしれない。この作品は日本推理作家協会賞(短編)受賞作であり完成度は高い。

しかし、ベージ数が少ないために作者の本領を活かしきれていない気もして、自分は他の2編の方に惹かれた。

 

「あげくの果て」

「あげくの果て」は高齢化社会をデフォルメして、シニカルに描いた作品。70歳以上の高齢者は徴兵検査を受け、甲種合格するとやがて招集される(「お迎え」と言われる)。この政府の政策に反対する敬老主義過激派組織「連合銀軍」、通称「ギン」とか、それに対抗する過激な排老主義青年組織が通称「アオ」で、特に過激なのが「青い旅団」だとか、バカバカしくて笑ってしまう。

だが、徴兵検査を受ける老人、警察に内通する「ギン」メンバーや、死体回収のバイトをする中学生を中心にストーリーが進んで行き、敬老原理主義で市民を犠牲にすることも厭わない「銀軍派」の無差別爆弾テロや「青い旅団」の老人襲撃など、内容は深刻になって行く。

 

先月隣町で、ギンによる爆弾テロがあったときには、死体が粉々になっていたため、背中にカゴを背負い、ゴミばさみを使って肉片を回収した。約二十キロで、一人分の死体としてカウントしてもらえたので、特別手当を含めかなりの稼ぎになった。

 

3人の話が収束するラストが不条理。高齢者徴兵制度が何なのかも暗示され、残された祖父、母、売り飛ばされたらしい中学生の行末が痛ましく、後味は決して良くない。しかし、しばらくすると、よく考えられた物語だなあという感想も湧いて来る。そんな作品だ。

 

「最後の言い訳」

「最後の言い訳」は、蘇生老人から拡がった蘇生者、いわゆる「ゾンビ」の物語。主人公が子供の頃に町で起こった蘇生者による惨劇以降の回想部分の話と、市役所の仕事でゴミ屋敷の強制執行に向かう現在の様子が、カットバックで描かれる。

回想部分の蘇生者が拡がっていく記述が秀逸。どこかであったような事件をパクった記事などにより、蘇生者が次第に拡大して様子や原因を綴っているのだが、パロディの記事が恐いけれどやたらおかしい。しかし最後の方で収容所が養殖場に変わるあたりになるともう笑えなくなる。

 

衆議院、蘇生者保護法を可決」

「私も匂いますか?」「もちろん。君みたいに、三十前後の女性が、一番脂も乗ってて食指を動かされるんだよ。ムフフ」「先生、ご冗談を……」

「保護施設、食品大手ヒューマンミートが落札」

 

だって、生の人間だから。まあ、そういう時代ならゾンビになったほうが生きやすいですな…しかしよく考えるとゾンビの食べ方が次第に洗練されて行くのも怖いし笑える。人間、特に30歳くらいの女性は耐え難いほどの芳醇な香りがして食べたなるという記述も可笑しい。

自分は回想部分と現在のストーリーが結びつかなかったので、結末には驚いたが、見直すと結末への伏線はいくつか張ってあった。

ラストのラストは、最後に少し期待した分梯子を外されるが、読み終わると「最後の言い訳」という題名が怖くなる。怖い一方、(変な言い方だが)ある意味ほっこりして、読後感は悪くない。

 


冒頭で書いたように、本作品の3篇とも筒井康隆の作品に似ているものの、筒井のようなはあまり感じられず、文章が上手いので、逆に変な現実感がある。このあたりは好みが分かれるだろう。

だが、現在の神経質とも言える人権尊重や「言葉狩り」のもとでは、筒井のようなタブーにチャレンジするハチャメチャな作品は書けないだろう。

そんな観点で読み直すと、本作にはいわゆる不適切な言葉は使われていない(当たり前だが)。毒が足りないような気がするのはそのせいだろうか。


ともかくも、ダークでシュール、理不尽な物語なのだが、非常にうまく構成され、まとまっていて文章もうまい。そのせいか、読後感は悪くない。うまく言えないが不思議な作品だ。


作者は同様の短編集「鼻」も書いているので、そちらも読んでみたい。

 

著者は、本作のようなタッチの作品のほか、警察モノも書いているが、なぜか作品数が少なく、さほどの知名度もない。本作のような作品を書いて、もっと活躍してほしい作家だと思う。

 

この作品をおすすめしたい人

  • ダークでシュール、不条理な作品が好きな人
  • 1960~70年代の筒井康隆小松左京のシュールなSFが好きな人
  • 筒井康隆のハチャメチャSFが好きな人

 

著者について

曽根 圭介(そね けいすけ、1967年~)は、日本の小説家。静岡県出身、早稲田大学中退。
静岡県生まれ。早稲田大学中退。25歳までアルバイト生活を続け、ホテル、漫画喫茶の店長などに勤務。36歳で無職になるが、貯金があったため毎日図書館で本を読むという生活を1年続け、その後執筆を始める。短編作品「鼻」が2007年の第14回日本ホラー小説大賞短編賞、同年「沈底魚」で第53回江戸川乱歩賞を受賞。2009年、「熱帯夜」で第62回日本推理作家協会賞短編賞を受賞。2021年「藁にもすがる獣たち」が韓国で映画化された。

主な作品

  • 沈底魚(2007年)
  • 鼻(2007年)
  • あげくの果て(2008年)(のちに「熱帯夜」に改題)
  • 図地反転(2009年)(のちに「本ボシ」に改題)
  • 藁にもすがる獣たち(2011年)(のちに「暗殺競売(オークション)」に改題)
  • 殺し屋.com(2013年)
  • TATSUMAKI 特命捜査対策室7係(2014年)
  • 工作名カサンドラ(2015年)
  • 黒い波紋(2017年)

※ 著者、主な作品は 曽根圭介 - Wikipedia を参考にした

 

 

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