あらすじ
人を予定どおり死なせる(自殺、病死以外)かを調査することが仕事の「死神」と、調査される人たちが織り成すバラエティに富んだ6つの物語。
目次
- 死神の精度
- 死神と藤田
- 吹雪に死神
- 恋愛で死神
- 旅路を死神
- 死神対老女
感想
伊坂幸太郎は「重力ピエロ」が一番最初に読んだ作品だ。この「死神の精度」は2番目に読んだ小説だと記憶している。
久しぶりに著者の作品を読みたいと思い、Kindleのリストを探したところ、この作品が、読んでから一番時間が経っていると思い再読してみた。
伊坂幸太郎の作品では殺し屋とかギャングものが好きなのだが、この作品も似たような感触があるのが良い。ただ、まじめなのかふざけているのか分からないところがあるので、著者の作風に慣れないと、よく分からないと思う人も多いかもしれない。
「死神」について
死神の仕事は事故、殺人など不慮の事故で死ぬ運命の人間について、そのまま死なせて問題ないかを調べることだ。死神は1週間の調査期間で死なせることが「可」か「見送り」かを決定して報告する。
ほとんどの場合が「可」のようで、あまり調査せず事務的に「可」と報告する仲間の死神も多いが、この死神は比較的真面目に、期限まで調査してから報告する。
死神はみな音楽が好きで、街のCDショップの視聴機に群がっており、素手で人間に触ると、触られた人は気絶して寿命が1年短くなる。主人公の死神はこの世に出てくるといつも天気が雨で、晴天を知らない、らしい。
6つの物語
最初の物語は、苦情処理担当で暗い性格の若い女性とクレーマーの関わりを描く「死神の精度」。クレーマーの動機が突飛すぎる気がするが、導入の話としては面白い。
2つ目の、任侠道にこだわるが故に仲間から疎まれるヤクザの生きざまを描いた「死神と藤田」は、ヤクザものの割に爽快感がある作品だ。
「吹雪に死神」は、吹雪で閉ざされた山荘での連続殺人のミステリー調の話で、事件の真相と死神の関わりが面白い。
片想いの女性と親しくなった若い男性に起こる出来事の「恋愛で死神」は不条理すぎる話でとても切ない。
「旅路を死神」は死神を脅して車で北上する殺人犯の動機と生い立ちが暗い物語だが、最後はほっとした。
死神を見ぬく老女と死神を描く「死神対老女」の話は、周辺に事故死者が多い老女の割り切った死生観が良い。
好きなのは、読後感が良い「死神と藤田」、切なすぎる「恋愛で死神」、そして最後の「死神対老女」だ。
特に「死神と老女」は、内容が第1話、第4話と繋がっていて、そうだったのかとワクワクするし、暗いグレーから明るいブルーに変わるようなラストの爽快感はなんとも言えない。
伊坂幸太郎の作品は情景描写が少なく少しふざけた会話でストーリーを進める。独自の世界観もあり好き嫌いがあるだろう。
自分は「グラスホッパー」「マリアビートル」「AX」などの少しとぼけた殺し屋の物語が一番好きなのだが、もう少し文学寄りの作品が好きな方もいるかもしれない。
「死神の精度」はそのどちらの要素も持っている作品なので、伊坂幸太郎を初めて読む方にもおすすめの作品だ。ラストの爽快感がなんとも言えないので是非おすすめします。
この作品をおすすめしたい人
- 可笑しいがほろっとする物語が好きな人
- ライトだが内容の濃い物語を読みたい人
- 変わったストーリーを楽しみたい人
- ラストで爽快な読後感を得たい人
著者について
伊坂 幸太郎(いさか こうたろう、1971年5月25日~ )は、日本の小説家。千葉県松戸市出身。東北大学法学部卒業。大学卒業後、システムエンジニアとして働くかたわら文学賞に応募、2000年『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。数年後に作家専業となった。宮城県仙台市在住。
主な作品
- 『重力ピエロ』(2003年)
- 『陽気なギャングが地球を回す』(2003年)
- 『アヒルと鴨のコインロッカー』(2003年)
- 『グラスホッパー』(2004年)
- 『死神の精度』(2005年)
- 『ゴールデンスランバー』(2007年)
- 『マリアビートル』(2010年)
- 『AX』(2017年7月)
- 『逆ソクラテス』(2020年)
※ 著者、主な作品は 伊坂幸太郎 - Wikipedia を参考にした。