keepr’s diary(本&モノ&くらし)

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【本の感想】戸部良一ほか「失敗の本質ー日本軍の組織的研究」~オリンピック、コロナ対策と重なる部分


失敗の本質

あらすじ

太平洋戦争で日本軍が敗北したノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナルインパール、レイテ、沖縄という6つの軍事作戦について、作戦の戦略や戦い方を分析して、敗北の原因を探る。これを基に現在の日本の企業組織についての課題を考察する。

目次

序章 日本軍の失敗から何を学ぶか

1章 失敗の事例研究
 1 ノモンハン事件
 2 ミッドウェー海戦
 3 ガダルカナル作戦
 4 インパール作戦
 5 レイテ海戦
 6 沖縄戦

2章 失敗の本質ー戦略・組織における日本軍の失敗の分析

3章 失敗の教訓ー日本軍の失敗の本質と今日的課題

感想

オリンピックと本書

本の感想と現在の政治・社会状況はあまり関わらせたくないのだが、本日開幕する「2020東京オリンピックについては、さまざまな賛成・反対意見があり、その中には、オリンピックの開催に向けた進め方について、本書に記載された太平洋戦争(第二次世界大戦)での日本軍の敗北との関連性を指摘する意見も複数ある。

 

その指摘とは別に、自分も何か重なるものを感じて、以前読んだことのある本書を今一度開いてみた。

 

直感的に現在のオリンピック開催への状況はインパール作戦の実施と類似していると感じ、まず、その部分を読み返した。

 

インパール作戦は日本の敗色濃厚な1944年に、日本軍がビルマ方面からインド領インパールを侵攻した戦闘で、戦闘、撤退の中で多くの戦死者と食糧不足や疫病による多数の病死者(戦死病者約7万人と言われている)を出し、極めて悲惨な結果を招いた作戦だ。

インパール作戦 - Wikipedia

 

作戦は勝利の可能性が低い、無謀で不要な作戦であったにもかかわらず、作戦実施に強いこだわりを持つ軍司令官牟田口中将が強硬に主張し実行された。

 

インパール、レイテ、沖繩は、日本の敗色が濃厚となった時点での作戦失敗の主要な例である。いうならば、この三つの作戦は、本来的な意味における「敗け方」の失敗の最も典型的な事例を提供してくれる。インパールは、しなくてもよい作戦を敢行した、いわば賭の失敗であった。そのケース分析では、戦略的合理性を欠いたこの作戦がなぜ実施されるに至ったのかという点に着目し、主に作戦計画の決定過程に焦点を絞るとともに、人間関係を過度に重視する情緒主義や、強烈な使命感を抱く個人の突出を許容するシステムの存在が、失敗の主要な要因として指摘される。

(本書より引用、以下同じ)

 

軍の中枢は無謀と知りつつ、明確に止めることはなかった。牟田口中将の作戦への強いこだわりと周囲の意見を聞かない強行姿勢は、オリンピック開催を進めた現在の菅首相の姿とダブって見える。

その他の作戦に関する分析でも、現代の日本社会や日本人の性格にも通じる示唆に富んでおり、年代性別を問わずおすすめしたい本である。

 

6つの敗北と失敗

本書はむしろ、なぜ敗けたのかという問いの本来の意味にこだわり、開戦したあとの日本の「戦い方」「敗け方」を研究対象とする。いかに国力に大差ある敵との戦争であっても、あるいはいかに最初から完璧な勝利は望みえない戦争であっても、そこにはそれなりの戦い方があったはずである。しかし、大東亜戦争での日本は、どうひいき目に見ても、すぐれた戦い方をしたとはいえない。

 

本書で分析された各作戦の敗北の原因を自分なりにまとめると次のとおりだ。

ノモンハン事件
  • 戦闘装備、兵器を軽視し、敵より劣る兵力なのに精神主義で戦う(これはこの作戦に限らず日本軍の戦闘全般に言える)
  • 現地の軍隊、関東軍の行動を軍中央部がコントルールできない

また、戦闘は敗北に終わったが、銃火器、戦車など近代的な兵力で上回ったロシア側と死者数は同程度であったため、装備で上回る敵とも同格に戦えるとの誤認を生じさせ、評価反省はあまり行われなかった。

ミッドウェー海戦
  • 日本側の暗号か解読され、偵察行動が鈍かったなど、情報に対する対策や重要性に対する感度が鈍い

本書では、状況変化に対する判断の甘さ、鈍さについても指摘があるが、結果論のようにも感じた。

ガダルカナル作戦
  • 相手の戦力を過小評価し、戦力を逐次投入したため、実効性のある戦闘ができない
  • 計画性が乏しい

(計画性の乏しいその場しのぎの対策は今のオリンピック、コロナ対策でも見られる)

インパール作戦

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連合軍側の写真 (Wikipediaより引用)

 

  • 勝利の可能性が低く、無謀で不要な作戦なのにもかかわらず、作戦に強いこだわりを持つ軍司令官が強硬に主張し実行
  • 軍の中枢は無謀と認識しつつ明確に止めない
  • 作戦自体が攻撃に傾注し、補給や撤退などのリスク管理ができていない

 

万一作戦が不成功となった場合を考えれば、作戦の転機を正確に把握し、完敗に至る前に確実な防衛線を構築して後退作戦に転換するための計画が必要であるはずであった。つまり、いわゆるコンティンジェンシー・プラン(不測の事態に備えた計画)が事前に検討されていなければならなかった。

 

牟田口によれば、作戦不成功の場合を考えるのは、作戦の成功について疑念を持つことと同じであるがゆえに必勝の信念と矛盾し、したがって部隊の士気に悪影響を及ぼすおそれがあった。

何かと似ていませんか。

 

レイテ海戦、沖縄戦

レイテ海戦は作戦自体は精微を凝らしていたが、作戦の解釈が中央本部と現地の指揮者間でズレていたため、精巧な作戦を生かせていない。

沖縄戦はそもそも兵力面で勝つ可能性はなかったが、作戦について敵攻撃を方針とする中央本部と持久戦を目指す現地軍で齟齬がある

 

全体として

そもそも、連合軍と国力、資源に差があることは、当時の軍部も認識しており、そのために、短期決戦、奇襲戦法、精神主義、楽観主義が重視され、そのこと自体無理があった。

 

インパール作戦は現地司令官の異常なこだわりによるところが大きいが、全体的に、軍中央と現地軍との間の作戦に対する解釈・意識の齟齬現地軍をコントロールできない中央本部のほか上記のような精神主義、非合理な楽観主義、情報戦略の軽視、リスク管理の甘さが敗北の要因だったのだろう。

 

本書では2章で総合的な分析を行っているが、1章を読めば内容は概ね理解出来た。時間のない人は1章だけ読んでも良いかもしれない。

 

日本の社会と日本人の特性~オリンピック、コロナ対策にも通じるもの

本書は組織論であるが、そもそもこうした日本軍の組織の特性は日本人の性質にも起因するのかもしれないと感じた。

 

ノモンハン事件の敵側の感想として、日本軍は実戦で戦う下士官以下の兵士は優れているが、幹部将校は出来が悪いというものがあった。これって、真面目でよく働く日本人の特性から来ているのかも知れない。現地の実戦部隊はよく働くのに、指揮する幹部の出来が悪い。逆にいえば幹部の出来が悪くても現場ではなんとなく仕事がてきてしまう

 

なにか今の日本の社会でも同じで、現場ができるから上がダメなのか、上がダメだから仕方なく現場が頑張るのか。どちらにしてもこうして統制が取れているようで取れていない、コントロールが緩い、でも何となく対応出来てしまう。

 

現役時代に外部からの検査で、本社は指示を出すだけで出しっぱなし、現場の状況を確認せず、ガバナンスが効いていないと指摘を受けたことがある。それもこうしたことの一例だろう。

 

江戸時代はどうだったのか、よく分からないのが、士農工商で実際の生産者は武士と関係なく働く、そういうものもあったのかもしれない。

 

ともかくも真面目で従順で頑張る現場と出来の悪い上層部。考えると、コロナ対策でもそういう事がいえる。諸外国に比べて緩い対策で、リスク管理も徹底しないのに、国民は自らルールを守り感染は欧米ほどは広がらなかった。今まではだが…

 

オリンピック関係では、ここ数日開会式責任者の過去の言動による辞任・解任が大きく報道されているが、現場に任せ切りで確認しない組織、リスク管理ができない組織東京オリンピック組織委員会だけではない。

 

雑感~絶対的なものはない

本筋とは関係ないが、本書で日本軍の戦い方と対比された米軍の組織、戦略、装備の優秀さも、ベトナム戦争では敗北した。民衆に紛れて草の根的な戦い方をする南ベトナム解放民族戦線(いわゆる「ベトコン」)には通用しなかった。絶対的なものはないのだと思う。

 

本書の時代的制約について

本書が書かれたのは1984年、まさにバブル前夜である。当時日本経済は絶好調で、1979年にはエズラ・ボーゲルの「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が話題になり、日本経済の特長である日本的経営の評価が高い時期だった。

 

このため、現在から考えると日本的組織の負の側面の分析が認識されにくい環境であり、日本企業の組織面での分析が多少物足りないと感じられるのは求めすぎだろうか。

現在の日本で分析すれば、さらに日本軍と現代の日本の組織の相似が見られるかもしれない。

 

感想まとめ

今まで述べてきたように、本書で分析されている旧日本軍の敗北の原因は、現在の日本の閉塞的な状況とかなり重なるものが多い

 

前述したように日本人はまじめに仕事をし、従順で、協調性があり、大人しい一方、コミュニケーションが下手で、時にヒステリックになる。こうした日本の特質をこの機会に反省する必要があるのかもしれない。

 

以上、本書を読んで感じた雑感を述べてみたが、当たっていないところはご容赦をいただきたい。多分100人100通りの感想があるのだろうと思う。

 

いずれにしても、現在の日本だからこそ、読む必要のある本ではないか。

 

この作品をおすすめしたい人

  • 現在の日本の政治・社会状況に違和感や疑問を感じている人
  • 日本の社会・組織について理解を深めたい人
  • 太平洋戦争について客観的知識を得たい人

 

著者について

6人の社会科学者による共書。戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝正、村井友秀、野中育次郎の各氏。

 

関連する主な作品

本書の著者などから次のような関連作品が出版されている。 

 


「超」入門 失敗の本質

 


失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇

 


「失敗の本質」と戦略思想 ──孫子・クラウゼヴィッツで読み解く日本軍の敗因 (ちくま新書)

 

▼本書です▼


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