彼は夢を見た。
居心地の悪い職場、他の会社への出向、病気。焦りと言いようのない不安。
ある日、久しぶりに会社に行くと知らない社員ばかり。
彼の後任者もいるらしく、みんなに挨拶をしている。
1人知っている顔がいたので声をかけた。
「ああ、昨日の送別会の会費はいくらですか。」
覚えていない。今までのことを全て忘れている。認知症になってしまったと思った。
こわごわ聞いてみた。なあ俺って、正直どうだったんだ。
いや、素晴らしかったですよ。人が変わったように仕事をして。
どちらからも、あんないい人はいないといい評判ばかりで、素晴らしい仕事をされた。
机を見ると感謝の手紙やメールが山のようにある。
そうだったのか。人との関係を大切にして、俺はいい仕事をしたのだな。
そうか、良かった。
目が覚めた。
夢うつつの中で、現実の方はなんと薄っぺらい人生だったのか、と彼は思った。