いらない保険 生命保険会社が知られたくない「本当の話」 (講談社+α新書)
生命保険関係について確認したいと思い、2冊の本を読んでみた。後田亨・永田宏著「いらない保険 生命保険会社が知られたくない「本当の話」」と出口治明著「生命保険とのつき合い方」である。
2つの本の内容
「いらない保険 生命保険会社が~」は日本生命の営業社員や保険代理店の経験のある後田氏と医療情報学・医療経済学が専門の永田氏が共著の、生命保険を批判する立場からの解説本である。
「生命保険とのつき合い方」は日本生命に長年勤務し退職後ライフネット生命の社長となった出口氏の書いた、これから生命保険を考えるようとする人向けの生命保険の入門本だ。
本の目次
「いらない保険 生命保険会社が知られたくない「本当の話」」
- はじめに
- 序章 その保険、本当に頼りになるの?
- 第1章 最強の保険は健康保険
- 第2章 がん保険の「ストーリー」にだまされるな
- 第3章 介護保険に勝る現実的方策
- 第4章 貯蓄・投資目的の保険はいらない
- 第5章 結局、「保険」をどうすればいいの?
- 終章 保険はあなたの人生を保障してはくれない
- おわりに
「生命保険とのつき合い方」
- はじめに
- 第1章 生命保険はなぜ必要か
- 第2章 まず政府のセーフティネットを知ろう
- 第3章 生命保険にはどのような商品があるのだろう
- 第4章 生命保険を買う前の注意点
- 第5章 生命保険をどう買うか
- 第6章 生命保険をどこで買うか
- 第7章 生命保険料はこうして決められる
- 第8章 生命保険会社がつぶれたらどうなる
- おわりに
感想
読んでみて、生命保険について書いてある意見、内容は同様のことがかなり多かった。
本の目的は異なるし、主に営業分野を経験されてきた人と本社勤務からライフネット社長となった人で立場や経験は異なる中で、同じことを指摘されているのだから、少なくともその部分は正しいのだろうと思う。
共通の指摘の内容
両方の本で共通して言及していることは、
- 生命保険に入る前にまず社会保障制度(健康保険、公的年金など)、特に健康保険の高額療養費、公的年金の遺族年金等について知っておく必要がある
- 現在のような低金利時代には養老保険、学資保険のような貯蓄保険に入る必要はない
- 保障が必要なのは主に子どもがいる働き盛りの人が中心
- 保険料は手取り収入の3~5%程度までにとどめる
- 必要な保険は収入保障保険、定期保険、就業不能保険程度と一部の医療保険※
- 相談するなら営業社員や代理店でなく、料金を払っても独立系(真の意味の)のフィナンシャル・プラナーに相談するのがベター。
※ 後田・永田氏は掛金の低い共済の医療保障、出口氏は通常の医療保険は不要だがレバレッジ(保障倍率)の高い医療保険、がん保険は認めている。
加入を検討しても良い生命保険
もう少し具体的に、加入を検討してもよい保険としては両氏は次のものを挙げている。
後田・永田氏の勧める保険
✅ 自立していない子供がいる家庭
✅ 単身者も含めて
- 就業不能保険(特に自営業者)
✅ その他医療・介護
✅ 相続対策のための終身保険(相続争い層を防ぐ目的も)
出口氏の勧める保険
(本に記載がない部分は筆者の推測も入れています。)
✅ 単身者
✅ 世帯(共稼ぎ)
- 単身者と同じ
✅ 世帯(1人が働く場合)
- 死亡保険(定期保険など。子どもが独立するまで)、収入保障保険
✅ 世帯(共稼ぎで子どもがいる場合。)
- 死亡保険(定期保険(10年)など。子どもが独立するまで)
✅ 世帯(1人が働く場合で子どもがいる場合)
- 死亡保険(定期保険など。子どもが独立するまで)、収入保障保険
※保険金額は遺族が働くことも考慮して設定(年収の2~3年分+子どもひとり1000万円程度が目安)
✅ シングルペアレント
- 就業不能保険+死亡保険(定期保険など)
内容には同感
自分は生命保険業界に土地勘があるのだが、概ねそのとおりだと感じた。
例えば医療費については、実際に病気で手術した人からも、「高額療養費は大変助かった、今は入院日数が短いので入院保険金はあまり役立たない(差額ベッド代の足しにはなるが)、多くの手術で腹腔鏡手術が多いので手術保険金もあまり期待できない」という話をよく聞く。
そして、両方の本に書かれているとおり、保険会社、代理店は手数料の多く取れる保険を勧める。お客さまのためと言うが、必ずしも利用者のためではない。だから、保険会社のセールスマンの言葉をうのみにしてはダメで、自分でよく調べて納得して入ることが必要だ。
生命保険会社の事情
なぜ保険会社の言うことをそのまま信じてはいけないかと言うと、生命保険会社が保険会社として存続するためには、常に一定の新契約を確保する必要があるが、生命保険は自分から加入を申し込むことは少ないので会社から積極的にセールスをして販売する。
営業社員には手数料というインセンティブを与えて、競って営業させる。
この手数料は会社としては経営に寄与する商品を多くする(例えば付加保険料(=保険料のうち会社の事務セールス費)の割合が高い商品や売りやすい保険など)。
セールスの場面は将来の悪いシナリオを提示して不安にさせ、このままではとんでもない状態になるので、すぐに保障が必要だと強調し、最大限の保障から勧めていく。これはニード喚起(なぜかニーズと言わない)と言って保険セールスの基本だ。
そんな生命保険会社や代理店の事情があるので、聖人のように顧客の財産、暮らし、将来の生活にあった保険を販売するわけではない。
現代では、金融当局や社会全体のコンプライアンスに対する厳しい目があるので、各社とも重要事項の説明や顧客の意向の確認などを必ず仕組みにしている。
しかし、顧客の意向の確認にしても、最終的には顧客の判断であり、顧客はこれらの本で説明しているような上述の事実を詳細に知っているわけではなく、多少知っていたとしても理解の程度も異なるので、プロの営業社員の巧みな誘導と対峙しながら本当に自分に適した保険を選ぶのは至難の業だ。
正しく判断するために
だから、正しく冷静に判断を行うためには、
- これらの本を読んで本当に必要な生命保険について理解を深める
- 独立のFPに相談する
- 営業社員の前では即答、即決しない
というようなことが必要だ。
自分の見方を補足すると、基本的には「生命保険とのつき合い方」に書かれている出口氏の意見が中立的で現実的だと思う。
一方で、保険には毎月の保険料・掛金を自動的に天引きする機能がある。
将来の資金の準備のためには、銀行などの積立定期預金を始める、会社で財形貯蓄に入る、毎月または必要な都度自分で一定額を預金していくのが最善であるが、支払った保険料が満期保険金より少なく場合があること、資金の流動性が乏しくなることを承知した上ならば、低金利下でも貯蓄性の保険に入る意味がありそうな気がしないでもない。
(報道された「かんぽ生命」の不適正募集のように、年金生活をしている高齢者が毎月の年金以上の保険料を払い、養老保険に入るようなことは論外です。)
また、そもそも保険・保障とは安心を買うという側面もあるので、資金の余裕があり、将来のために必要額より多めに保障をしておきたいのであれば、それはそれで否定するものではない。
いずれにしても生命保険は高い買い物だから、生命保険への加入を勧められたり、自分で加入を考えている方は、ネット情報だけでなく、このような、考え方のしっかりとまとまった本を一度読んで見ることをおすすめしたい。
いらない保険 生命保険会社が知られたくない「本当の話」 (講談社+α新書)
著者・他の作品について
後田 亨
1959年生まれ。長崎大学経済学部卒。アパレルメーカー勤務を経て日本生命相互会社営業職を10年勤務後複数の保険代理店勤務。オフィスバトン「保健相談室」代表(2019年2月現在)。
著書:「「保険のプロ」が生命保険に入らないもっともな理由」「生命保険の罠」ほか
永田 宏
1959年生まれ。筑波大学理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業株式会社、株式会社KDDI研究所等を経て、2009年より長浜バイオ大学メディカルバイオサイエンス学科教授・学科長(2019年2月現在)
著書:「販売員も知らない医療保険の確率」ほか
出口 和明
1948年生まれ。京都大学法楽譜卒。1972年日本生命相互会社入社、生命保険協会、日本生命ロンドン事務所長、国際業務部長。ライフネット生命保険株式会社を創業し、社長、会長。現在立命館アジア太平洋大学学長。
著書:「生命保険入門」「直球勝負の会社」「働き方の教科書」ほか多数