keepr’s diary(本&モノ&くらし)

ネット、読書、音楽、散歩が趣味のおじさんです。趣味、商品、暮らしの疑問、感想を思いつくまま綴ります。

【本の感想】稲垣 栄洋「生き物の死にざま」


生き物の死にざま

 

 

あらすじ

サケ、ミツバチ、カゲロウなど、単細胞生物から昆虫、大型動物までの様々な生き物の誕生から死について、特に「死」にスポットを当て、生き物が懸命に生き、子孫を残し、死んでいく姿を描いた29話のエッセイ。

目次

1..空が見えない最後―セミ

2.子に身を捧ぐ生涯―ハサミムシ

3.母なる川で循環していく命ーサケ

(略)

29.死を悼む動物なのかーゾウ

(本書より引用)

感想

この本を読んだきっかけは、いつも読んでいるミステリーや純文学の古典以外の本を読みたくなり、ネットで偶然見つけたからだが、読んでみて予想以上に面白かった。

紹介文に「すべては「命のバトン」をつなぐために~ 限られた命を懸命に生きる姿が胸を打つエッセイ!」と書いてあり、大体こうした商品説明は大げさなものが多いのだが、この本に関しては説明どおりだ。

 

心打つ内容

あらすじで書いたように、様々な生き物の誕生から死まで、特に交尾から死までの「死にざま」について、単細胞生物のゾウリムシ、微生物のプランクトンからゾウ、ライオンまで、幅広く記述している。

最初が「セミ」の話で、セミは地中で幼虫で何年もすごし、成虫になるとすぐ死んでしまうということはよく知っているのだが、幼虫時代も含めると昆虫の中ではとても寿命が長いこと、セミの一生は地中の幼虫が主で、羽化して成虫になればただ子孫を残して死ぬだけの存在であることなど認識させられて、生きるということに改めて感銘し、ぐいぐいと本の中に引き込まれてしまった。

 

どの生き物の一生もそれぞれ千差万別で特長があり興味深いのだが、特に印象に残った話のひとつが、これもよく知られている「サケ」の一生。

生まれた川から海に移動して成長し、やがて、生涯の最後に生まれた川を遡上して、傷だらけになりながら、様々な危険や障害を乗り越えた個体だけが交尾、産卵してすぐに命を終える。あまりにも過酷な一生だ。

そして、 

  • 様々な困難を乗り越えて人間から血を吸い、産卵まであと一歩のところで人にはたかれて死ぬことも多いメスの蚊
  • メスにかじられながらも交尾をやめないカマキリのオス
  • 晩年に一番危険な蜜集めの作業に出かけて、やがてどこかで「野垂れ死」してしまう定めの、子孫を残すことがないミツバチの働きバチ
  • 老化しない不思議なネズミ
  • ゾウやサイなどには手出しはできず、死ねばハイエナやハゲタカに食われてしまう百獣の王ライオン

書き始めるとキリがない。

 

あたたかい視線

著者の生き物への視点と記述はとても優しく暖かい。知的好奇心が満たされただけではなく、感動した。科学の本を読んで涙が出るとは思ってもいなかった。

近年話題になった本に「残念ないきもの」(こちらはどちらかといえば子供向きの本)という本があり面白い本だと思うが、本書はそれとはまた一味違う。


おもしろい!進化のふしぎ 続々ざんねんないきもの事典

 

生きる目的

読んでみて、生物は子孫を残すのが生きることの最大の目的であり、個体の生存より優先するものだと改めて感じた。

人間というものは、そうした生き物全般の在り方とずいぶんと変わってしまったと思う。

 

「人生の目的は何か」、「人は何のために生きるのか」と、人は古来より問い続けている。自分は、人も子孫を残すことが最大の目的であり、それ以外の哲学的回答や人生論的な答えは理屈、観念に過ぎないのではないかと秘かに思っているが、改めてそう感じた。


仮に、この本で、「ヒト」を記述するとしたらどう書くのだろう。

子孫を残すという目的以上に、個体の快楽を得るために交接を繰り返す生き物。子孫を残し、子どもを育てる役目を終わっても、「ヒト」が作り出した文明という技術により、生物本来の寿命以上に生存し、種全体が共同で老化した個体を生存させている「素晴らしい生き物」…と書くのか、「悲しい生き物」と書くのか。どちらだろうか。

 

著者は植物学者だが、本書では植物の話題はほとんどない。その博識に驚かされるとともに、生き物に向ける冷静かつ優しい視線に癒された。

生きものたちの奮闘と哀切を描く珠玉の29話。(紹介文より)
おすすめです。

著者の他の本も読みたくなりました!

  

この作品をおすすめしたい人

  • 生き物が好きな人
  • 生物の生死に関心がある人 
  • 生きる意味を考えたい人

著者について

稲垣 栄洋(いながき ひでひろ、1968年 - )。植物学者。静岡大学大学院農学研究科教授。農学博士。専門は雑草生態学静岡県生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了後、農林水産省入省、静岡県農林技術研究所上席研究員などを経て現職。

主な作品

  • 『身近な雑草のゆかいな生き方』三上修絵 草思社 2003 のちちくま文庫
  • 『身近な野菜のなるほど観察記』三上修絵 草思社 2005 のちちくま文庫
  • 『蝶々はなぜ菜の葉にとまるのか 日本人の暮らしと身近な植物』草思社 2006
  • 『キャベツにだって花が咲く 知られざる野菜の不思議』2008 光文社新書
  • 『残しておきたいふるさとの野草』三上修絵 地人書館 2010 『身近な野の草日本のこころちくま文庫
  • 『蝶々はなぜ菜の葉に止まるのか』2012 角川ソフィア文庫
  • 『弱者の戦略』2014 新潮選書
  • 『散歩が楽しくなる雑草手帳』東京書籍 2014
  • 『たたかう植物 仁義なき生存戦略』2015 ちくま新書
  • 『徳川家の家紋はなぜ三つ葉葵なのか 家康のあっぱれな植物知識』東洋経済新報社 2015
  • 『なぜ仏像はハスの花の上に座っているのか 仏教と植物の切っても切れない66の関係』2015 幻冬舎新書
  • 『植物はなぜ動かないのか 弱くて強い植物のはなし』ちくまプリマー新書 2016
  • 『面白くて眠れなくなる植物学』PHPエディターズ・グループ 2016
  • 『スイカのタネはなぜ散らばっているのか タネたちのすごい戦略』西本眞理子絵 草思社 2017
  • 『雑草はなぜそこに生えているのか』ちくまプリマー新書、2018
  • 『世界史を大きく動かした植物』PHP研究所、2018
  • 『生き物の死にざま』草思社、2019

 


生き物の死にざま

 

姉妹編が出ました!


生き物の死にざま はかない命の物語

 

さまざまな雑草の生き残り策を、ビジネス戦略と絡めて解説 


「雑草」という戦略 予測不能な時代をどう生き抜くか

 

読み出したらとまらない、おそろしい植物のはなし


怖くて眠れなくなる植物学

 

一粒の小麦から文明が生まれ、茶の魔力がアヘン戦争を起こした 


世界史を大きく動かした植物

 

「平均の人間」なんて存在しない。個性の数は無限大。

 
はずれ者が進化をつくる --生き物をめぐる個性の秘密 (ちくまプリマー新書)

 

名もなき草たちの暮らしぶりと生き残り戦術

 
身近な雑草の愉快な生きかた(ちくま文庫)

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