あらすじ
ソーシャルワーカーとして長い経験を持つ著者が、社会の中の居場所を見失った人を、支え育てて、暮らしてゆく環境を整える仕事〜ソーシャルワーカーの仕事について、経験談を交えて分かりやすく解説する。そして、ソーシャルワーカーとして必要で大切なことについて伝えていく。
目次
- プロローグ ヨクミキキシワカリ(宮沢賢治)
- 第1章 ソーシャルワーカーが対象とする人々
- 第2章 ソーシャルワーカーがやっていること
- 第1話 〝なかなか死ねない、のですか?〟
- 第2話 〝その人、確かに放火はしたけど、でも、手加減してます!〟
- 第3話 その小屋には藤棚があって、手作りベンチがあって
- 第4話 〝お願い、わたしを施設に入れて〟
- 第3章 ソーシャルワーカーの力
- 第4章 ソーシャルワーカーの仕事の広がり
- エピローグ 愁ひつつ 岡にのぼれば 花いばら(与謝蕪村)
感想
たまには毛色の違った本を読んでみようと思い、口コミの評価が高かったので読んでみました。
著者はソーシャルワーカーとして長年活躍してきた方で、経験談を含めた、説明は大変納得感がありました。ソーシャルワーカーの仕事の大変さ、厳しさが改めてよく理解でき、深まったと思います。
読みながら考えていたのは、次のようなことでした。
- ソーシャルワーカーは支援が必要な人の立場に立って活動するため、その人の周りの環境、社会、人間の視点とは対立する場合がある。人はどちらの立場にも立つ可能性があるが、どちらが正しいか必ずしも公平、客観的には判断できないので、非常に悩ましい。支援される弱者がいつも正しいとは限るまい。差別の問題含めて、非常に難しい問題。
- ソーシャルワーカーは人への支援だけでなく、周りの人々への働きかけ、さらには社会制度の改善への働きかけも、必要。これは大変な仕事だ。
原因に目をとめて見えてきたことは、貧困を生みだす社会環境そのもの──失業や不安定な職業、不衛生な生活環境、教育の欠如や不十分な労働技能、不十分な医療等──です。これらの改善の働きかけと貧困状態にある個人への働きかけとの、双方向の活動が必要だという発見でした。(作品第4章より引用。以下同じ)
- それから、この仕事は相当心が練れていて、タフでないと務まらない、自分なら一日ももたないだろう。
なぜなら、個人としては決してお付き合いしたくない、いうならば性格の合わない人とも歩みを共にすることがある。そういう職業ですから。
- 相手の立場に立ったケアをするためには、先入観なく相手と向き合う(この言葉はあまり好きではないのですが、ほかに言葉がないので使います)必要がある。しかし、それは自分の裸の心で相手に向き合うため、精神的に大変なダメージを受けるだろう。
- さらに現状の社会制度、社会福祉制度の欠陥、矛盾も現場目線で見えてくる一方、改善が確実に必要なものでも、利害関係、政治の面から実現しないものが多いだろう。欲求不満で、気が遠くなりそう。
- 本の中で著者が言っているように医者が相手の命と向き合う仕事なら、ソーシャルワーカーは相手の人生と向き合う仕事。それって、宗教と同じでものすごく重い。
- ソーシャルワーカーの扱う問題は、生、老、病、死。これって、お釈迦様の悩んでいたもの。宗教の扱うレベルなのか…
- 1年ほど前だったか、吉岡里帆主演で「健康で文化的な最低限度の生活」という市役所のソーシャルワーカーとして採用された若い女性のドラマをやっていたが、この本に描かれているような様々な社会的な問題が描かれていて、ドラマを見ていて若い人には無理ではないかと思っていた。本を読んでなおさらその感が強くなった。大学等で学問としては学べるが、大学新卒の若い人にはなかなか難しいな。一定の社会経験、年齢が必要なのかなと思った。
著者はソーシャルワーカーに大切なこと、心構えとして冒頭で、
最後のまとめとして、与謝蕪村の、
「愁ひつつ 岡にのぼれば 花いばら」という句
を引用し最後にこうまとめています。
この本を読んで、もしソーシャルワーカーになりたいと考えたのなら、それは私にとってとても 嬉しいことです。そして、そのように考える方には、将来、あなたの前に立ち現れるだろう人、より良く生きる意欲もなければより良く生きる手段も持たない人々の中に、人間的な美しさを見出してほしいと願います。
ソーシャルワーカーとして、憂いつつ岡にのぼり、そこに花いばらを見つけてほしい。見つけたものは一見、取るにたらないように見えるかもしれない、華やかでもないかもしれない、とげを持っているかもしれない。(作品エピローグより引用)
自分には無理ですが、ソーシャルワーカーの支援が必要な人(自分がそうなるかもしれない)に対する視線を今より少し暖かくすることはできるかもしれないと思う。
いろいろ考えさせられる、考える材料を与えてくれる本です。
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著者について
宮本 節子(みやもと せつこ)1943年生まれ。日本社会事業大学卒業後、地方公務員福祉上級職を16年勤め、89年から全国社会福祉協議会社会福祉研修センター専任教員、95年から2004年まで日本社会事業大学付属日本社会事業学校専任教員としてソーシャルワーカー育成に携わる。現在、「ポルノ被害と性暴力を考える会」世話人として、女性や子どもに対するポルノ被害や性暴力を訴える社会活動に取り組んでいる。
主な作品
- 『地域に拓かれた施設づくり』(全国社会福祉協議会)
- 『証言・現代の性暴力とポルノ被害』(東京都社会福祉協議会、共著)
- 『婦人保護施設と売春・貧困・DV問題』(明石書店、共著)
- 『ソーシャルワーカーという仕事』(ちくまプリマー新書)
など。
著者・主な作品は、”ちくまWEB ””より引用