keepr’s diary(本&モノ&くらし)

ネット、読書、音楽、散歩が趣味のおじさんです。趣味、商品、暮らしの疑問、感想を思いつくまま綴ります。

【本の感想】江戸川乱歩「押絵と旅する男」


江戸川乱歩作品集 107作品収録+関連作品

あらすじ

「私」は汽車の中で、額に入った絵のようなものを窓の外に向ける妙なしぐさをしている年の良くわからない男に興味を持つ。男から見せられたそれは、まるで生きているかのような男女の押絵だった。男は「私」に、その押絵にまつわる身の上話を語り始める。

目次

 なし

感想

江戸川乱歩推理小説好きの私にとって大変なじみの深い作家で、子供の頃に図書館にあった作品(怪人20面相だったろうか)を読んだ当時から親しんでいる。

乱歩の作品は、怪人20面相、少年探偵団、黒蜥蜴などの大衆向け娯楽作品の長編シリーズから、怪奇的、耽美的な作品、心理的な作品まで幅広いが、自分はこの作品や「白昼夢」のような、現実か非現実かわからないような世界を描いた濃密な短編が好きだ。

 

あらすじをもう少し詳しく書くと「私」は魚津へ蜃気楼を見に行った帰りの電車で、同じ車両にいる、古風な服を着て年齢不詳の男の妙な行動に注意を奪われていく。

(魚津の蜃気楼は現在でも見られるようです。こんな感じ↓ですが、どうも映像ではピンとこないですね。) 

 

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下記ページより引用させていただきました。

www.info-toyama.com

で、「私」は蜃気楼が暗示するような奇妙な体験をすることになる。額に入った押絵を窓の外に向ける男に近づいた私は、極めて精密に造られた男女の押絵を見せられ、それを生きていると感じてしまう。

更に男に言われるままに望遠鏡で見ると、本当に生きていると感じてしまう。

そして男はこの押絵にまつわる話を語り始める…

・・・男の兄は浅草の十二階から望遠鏡で見た娘に恋をしてしまう。調べると娘は人間ではなく、浅草公園にある覗きからくり屋の八百屋お七と恋人が描かれた押絵だった。

その背景の中に、一尺ぐらいの背丈の二人の人物が浮き出していた。浮き出していたというのは、その人物だけが、押絵細工でできていたからである。黒ビロードの古風な洋服を着た白髪の老人が、窮屈そうにすわっていると(中略)、緋鹿の子の振袖に黒繻子の帯のうつりのよい、十七、八の水のたれるような結い綿の美少女が、なんともいえぬ嬌羞を含んで、その老人の洋服の膝にしなだれかかっている、いわば芝居の濡れ場に類する画面であった。(作品より引用。以下同じ)

兄は押絵の中に入ってでも、お七と一緒にいたいと願い、弟である男に望遠鏡を逆にして自分を見てほしいと頼む。そのとおりにすると、望遠鏡の中で小さくなった兄は押絵になり恋人の押絵と入れ替わり、歓喜する。

だが、もともと人形だったお七は年を取らないが人間の兄は年を取っていき今では白髪の老人になっていく。男はそんな兄を憐れんで久しぶりに東京に行くところだと言って、汽車を降りる。

という話だ。

男の話の中に出てくる浅草の十二階「凌雲閣」はこの時代の小説によく出てくる建物で、高い建物がなかった当時は見晴らしがよく人気の建物だったようだ。残念ながら関東大震災で倒壊する。

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Wikipediaより引用

ja.wikipedia.org

 

また、押絵の中の八百屋お七は、兄が押絵に入ってもいいと惚れるほどの美人だったのでしょうね。

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Wikipediaより引用

ja.wikipedia.org

ちなみに「押絵」とは型紙を布で包み立体的に張り合わせた絵のことで、このようなものです↓。

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さて、奇妙な人物に会い、奇妙な物語を聞くという話の流れは、よく見られるパターンだが、この作品では、最初に出てくる魚津の蜃気楼の印象から、汽車内での数十年前のはやりの服を着た男の奇妙なふるまい、額縁に入った押絵、生きている押絵の男女、望遠鏡、浅草の十二階、覗きからくり、八百屋お七という怪しげな物や舞台に次第に引き込まれ、非現実感が増していく過程が大変うまく造られている気がする。

自分の作品の評価が厳しかった作者が、この作品は「一番普通」という言葉で評価しているそうだが、コンパクトな中、精密な細工のように作りこまれた作品だと思う。

 

そんなに惚れた娘であれば、自分も押絵に入ってもいい気持ちもあり、エロティックな恍惚感や耽美主義の世界に入ってしまう。ただ、自分だけ年老いていくのはものすごい地獄だな。

娘の乳のふくらみといい、腿のあたりのなまめいた曲線といい、こぼれた緋縮緬、チラと見える肌の色。指には貝殼のような爪が生えていた。

いずれ兄は亡くなるがその時はもとの恋人の人形が戻るのだな。そんなことも考える。

 

結末で男が押絵の中の兄に見えたという記述は、もしかすると「私」に話を聞かせたのは弟ではなく、兄の方だった、弟は最初からいなかったという暗示か。

うーん、その方が深い。蜃気楼だ。

(略)窓から見ていると、細長い老人のうしろ姿は(それがなんと押絵の老人そのままの姿であったことか)簡略な柵のところで、駅員に切符を渡したかと見ると、そのまま、背後の闇の中へ溶けこむように消えていったのである。

読んでいて、既視感があったのはなぜかと考えたら、「笑うセールスマン」。絵だとか、別の世界だとかに本人が望んで入ってしまうこんな感じの話が多いからか。

電車の中で何かの中に信じがたいものを見るという設定では京極夏彦の「魍魎の箱」も同様。どちらもこの作品の影響を受けているのかもしれない。

 

補足説明が多くなりすぎて読みにくかったと思います。ご容赦を。

この作品に限らず、江戸川乱歩の作品は非日常の世界を味わわせてくれるので、ご一読をお勧めします。

 

この作品をおすすめしたい人

  • 不思議な話が好きな人
  • 中身の濃い怪異物語を読みたい人
  • 非日常の世界を味わいたい人 
  • 江戸川乱歩の作品が好きな人

 

著者について

江戸川 乱歩(えどがわ らんぽ、旧字体:江戶川 亂步、1894年(明治27年)10月21日 - 1965年(昭和40年)7月28日)は、大正から昭和期にかけて主に推理小説を得意とした小説家・推理作家である。また、戦後は推理小説専門の評論家としても健筆を揮った。実際に探偵として、岩井三郎探偵事務所(ミリオン資料サービス)に勤務していた経歴を持つ。

本名は平井 太郎(ひらい たろう)。日本推理作家協会初代理事長。

ペンネーム(江戸川乱歩)は小説家のエドガー・アラン・ポーに由来する。

主な作品(代表作)

『D坂の殺人事件』(1925年)
『陰獣』(1928年)
『孤島の鬼』(1930年)
『黒蜥蜴』(1934年)
怪人二十面相』(1936年)
幻影城』(1951年、評論)

著者・主な作品  出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

 


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