keepr’s diary(本&モノ&くらし)

ネット、読書、音楽、散歩が趣味のおじさんです。趣味、商品、暮らしの疑問、感想を思いつくまま綴ります。

【本の感想】泉鏡花「外科室」


『泉鏡花全集・188作品⇒1冊』

 

あらすじ

画家である「余」は重篤な病にかかった伯爵夫人の手術に立ち会う。夫人はうわごとを言うことを危惧し麻酔を拒否する。担当の医師高峰は麻酔なしで手術するが、手術の途中、身を起こした夫人は医師のメスを胸に差し自ら命を絶つ。医師と夫人は9年前に一度だけすれ違い、互いに知らずに思いを寄せ合う間柄だった。

目次

 なし

感想

泉鏡花の有名な作品らしいので読んでみた。今まで鏡花で読んだ作品は、高野聖、夜行巡査、貝の上に河童が居る事の3作品だけで初心者です。

この作品、例によって一度読んだだけでは意味が分からなかった。「余」の述懐で二人の関係が語られるのかと思ったらいきなり終わった。正直唖然とした。

青山の墓地と、谷中の墓地と所こそは変わりたれ、同一日に前後して相逝けり。(作品より引用。以下同じ)

2回目に読んで何となく意味がつかめた。二人の不倫が死で終わった物語だと思った。

3回目に読んで、ネットでかかれた解説も参考にやっと意味が分かった。不倫というよりはものすごい純愛物語なのだ。

9年前にたった一度だけすれ違っただけの男女がお互い思い続けて、男の方は妻ももらわない。

重病になった夫人がかかった病院で思いつづけた男が自分の手術を担当する医師だと知る。だが、それは相手には伝えられない。医師の方もすぐにわかったのではないか。妻ももらわず思い続けている相手であれば(書いてあるわけではなくて推測です)。

そして手術。麻酔をかけるとうわごとで男の名を呼ぶことを恐れた夫人は麻酔を拒否。明治の人は今より我慢強かったのだろうが、麻酔のない手術なんてうそでしょうとも思う。でも小説に書くのだから全く作り事ではないのだろう。自分はとても無理です。

明治時代の外科手術って考えたこともなかったので、どんな手術なのかネットで検索してみたがはっきりしたことはわからなかった。ただ、江戸時代、有吉佐和子の「華岡青洲の妻」で知られる医師華岡青洲が世界に先駆けて全身麻酔乳がんの手術をしたとの記事があった。そうなんだ、江戸時代にもう全身麻酔があったんだ。すごいな。

この手術も、描写から見ると乳がんの手術だったのかもしれない。

そして、「あなたなら、あなたなら」と言って麻酔のない手術の苦痛に耐え、手術中に身を起こして「あなたはわたしを知らないだろう」と言いながら、メスで自分の胸を突く。医師は「忘れません」という。

「でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!」

謂うとき晩し、高峰が手にせるメスに片手を添えて、乳の下深く掻き切りぬ。医学士は真蒼になりて戦きつつ、「忘れません」

何という簡潔で、なんという深い愛情表現なのだろうか。

作品には書いていないが、おそらく夫人はもう自分は助からないと覚悟を決めて、想いを寄せた医師のメスで死にたいと思ったのだろう。医師も瞬時にそれを理解し「忘れません」といった。

たった一度の邂逅でお互いここまで思えるとは現代では考えられず、明治の人は純粋だったのかもしれない。

ともかく、今までに読んだり、聞いたことのない非常に純粋で劇的なプラトニックラブの物語だ。

ネットでの解説(女性向け)でもこの純愛は大絶賛だった。

ただ、自分は少しうがって考える。

本当に二人は一度すれ違っただけなのか。それだけで9年も思い続け、死に向かうことができるのか。

これは全くの個人的感想ですが、二人はその後に偶然どこかで出会い、何度かひそかに逢瀬があったのではないか。少なくとも一度くらいは。

そうでないと、いくら明治時代でもこんな夢のような純愛はあり得ないような気がします。

作者は「余」の述懐の中、医師が二人の出会いの後、ますます謹厳な生活を送ったと、それを否定するような表現をしていますが、世間にわからないようにひそやかに二人の関係があったのではと読者にゆだねているような気がします。自分だけの解釈だと思いますが、そういう解釈の方がしっくり来るのです。

高峰はかの婦人のことにつきて、予にすら一言をも語らざりしかど、年齢においても、地位においても、高峰は室あらざるべからざる身なるにもかかわらず、家を納むる夫人なく、しかも渠は学生たりし時代より品行いっそう謹厳にてありしなり。予は多くを謂わざるべし。

さらに言えば、夫人が胸を突いたのは、無麻酔の苦痛の錯乱のためとも言えるかもしれません。内容が簡潔である分、いろいろと想像力を掻き立てられます。

 

いろいろな意味で現代の小説とは一味違う作品です。ご一読をお勧めします。

 

この作品をおすすめしたい人

  • 純愛物語が好きな人
  • 物語の意味を考えたい人
  • 明治時代の外科手術の雰囲気を知りたい人
  • 泉鏡花が好きな人 

著者について

 泉 鏡花(いずみ きょうか、1873年明治6年)11月4日 - 1939年(昭和14年)9月7日)は、日本の小説家。明治後期から昭和初期にかけて活躍した。小説のほか、戯曲や俳句も手がけた。本名、鏡太郎(きょうたろう)。金沢市下新町生まれ。

尾崎紅葉に師事した。『夜行巡査』『外科室』で評価を得、『高野聖』で人気作家になる。江戸文芸の影響を深く受けた怪奇趣味と特有のロマンティシズムで知られる。また近代における幻想文学の先駆者としても評価される。ほかの主要作品に『照葉狂言』『婦系図』『歌行燈』などがある。

主な作品( 代表作)

  • 『夜行巡査』(1895年)
  • 『外科室』(1895年)
  • 照葉狂言』(1896年)
  • 高野聖』(1900年)
  • 婦系図』(1907年)
  • 『歌行燈』(1910年)

著者、作品の出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

 


外科室・海城発電 他5篇 (岩波文庫)

 
ちくま日本文学全集 泉 鏡花

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