keepr’s diary(本&モノ&くらし)

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【本の感想】芥川龍之介「玄鶴山房(げんかくさんぼう)」

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あらすじ

ゴム印の特許で財産を築いた画家玄鶴の家族の日常の生活を描いた物語。静かだが家族内に生じる軋轢や不満を描く。元妾が肺結核の玄鶴の世話をするため家に滞在したことで、家族内や玄鶴の心に不満や軋轢が生じていく…

目次

 一~六(章立て)

感想

 さて、「玄鶴山房」。

山房(読み)サンボウ

①山中の家。山荘。
②寺。
③書斎の雅称。 「漱石-」

出典 三省堂 大辞林 第三版

芥川龍之介の作品を年代順に読みたくて、冒頭に掲げた作品集を買いました。現在8割半ばまで読み進み、晩年のこの作品にたどり着きました。

堀辰雄の書いた「芥川龍之介論」(1929年(昭和4年))で、最高傑作と評価している作品なので、少し緊張して読みます。

1度目の読後感は、う-ん、なんかあっけないな。正直最高傑作なのかなとも思いました。

2度読んでみました。

感想が変わりました。書いてみます。

 

ストーリーとしては、主人の玄鶴は肺結核で病床に伏している。妻も腰が不自由で動けない状態。玄鶴の娘は面倒見がよくお人好し。娘婿は銀行員で凡人。家には女中と玄鶴の面倒を見る看護婦。看護婦は冷ややかに家族を見ている。

そこに元女中で玄鶴の妾だったお芳が子供を連れて玄鶴の世話に訪れたことから、家の中は少しギスギスして来る・・・

 

冒頭は、小さいが落ち着いた趣のある家「玄鶴山房」の描写から始まります。作者はこの家と対比させて、家族の「普通の不幸」を描いたのでしょうか。

しかし「玄鶴山房」は兎に角小ぢんまりと出来上った、奥床しい門構えの家だった。殊に近頃は見越しの松に雪よけの縄がかかったり、玄関の前に敷いた枯れ松葉に藪柑子の実が赤らんだり、一層風流に見えるのだった。(作品より引用。以下同じ)

病気の老父母がいれば、当然、家の中は暗くなり、ましてや主人の元妾が家に滞在するならこれも当然、不協和音が生じます。

ただ、この作品の描写・内容は現在の小説や本作と同時代のプロレタリア(社会主義)文学などに比べればさほど深刻ではありません(程度が)。

世の中の人々が直面している日常は、一見穏やかなようでも、静かな不幸や軋轢が溢れており、その中で人は生き死んでいくということ、そんな厭世観を描きたかったのかな、とふと感じました。

次第に衰弱していく玄鶴は、元妾のお芳が帰った後「恐しい孤独」と人生の悔悟に悩まされる。玄鶴は自殺を考え、看護婦にふんどしの布を買って来させる(もっと他のものがなかったのかと思うのですが)。看護婦はうすうす気づいて見張っている。玄鶴はそうした状況に突然笑い始める(ここはとても印象的です)。玄鶴はすきを見て首をくくろうとするが、結局元妾の子どもに見つかり失敗する。

彼は仰向けになったまま、彼自身の呼吸を数えていた。それは丁度何ものかに「今だぞ」とせかれている気もちだった。玄鶴はそっと褌を引き寄せ、彼の頭に巻きつけると、両手にぐっと引っぱるようにした。

このあたり、当時の芥川自身の心境のような気がします。作品集をずっと読んできて、この頃の芥川はかなり神経衰弱(現在のうつ病統合失調症適応障害どれでしょうか。)の症状が現れた病的な作品が多く見られます。

自殺願望があったのでしょう。でもなかなか実行できない。何かが邪魔をする。

元妾の子どもに見つかったというのもなにか暗示がありそうです。

 

結局、玄鶴老人は肺結核で亡くなり、最後に葬儀場の場面で、元妾のお芳を見かけた親戚の青年が彼女の行く末を考えて暗い気持ちになるという場面で終わります。

彼の従弟は黙っていた。が、彼の想像は上総の或海岸の漁師町を描いていた。それからその漁師町に住まなければならぬお芳親子も。——彼は急に険しい顔をし、いつかさしはじめた日の光の中にもう一度リイプクネヒトを読みはじめた。

この青年の読んでいた本の"リイプクネヒト"とは1916年(大正5年)に虐殺されたドイツの社会主義者であり、おそらくこの青年はお芳のような不幸な女を救うことのできないもどかしさに不快になったということでしょう。

 

この作品は1927年1、2月に発表されますが、芥川はその年1927年(昭和2年)7月服毒して死亡します。

ネットで調べると、本作は学者など博識な方々が様々な考察を重ねています。私にはこの作品が芥川の最高傑作かどうかは判断する力がありませんが、凝縮された文章に緊張感が漂っている完成度の高い作品であることは理解できます。

読後感は静かな厭世観でしょうか。どちらかといえば暗い内容の割に、不快ではない諦めに似た想いにとらわれます。

ご一読をおすすめします。 

この作品をおすすめしたい人

  • 純文学が好きな人 
  • 完成度が高い短編を読みたい人
  • 静かな厭世観を感じたい人
  • 芥川の代表的な作品を読んでみたい人

著者について

 芥川 龍之介(あくたがわ りゅうのすけ、1892年〈明治25年〉3月1日 - 1927年〈昭和2年〉7月24日)は、日本の小説家。本名同じ。

その作品の多くは短編小説である。また、『芋粥』『藪の中』『地獄変』など、『今昔物語集』『宇治拾遺物語』といった古典から題材をとったものが多い。『蜘蛛の糸』『杜子春』といった児童向けの作品も書いている。

主な作品( 代表作)

  • 羅生門』(1915年)

  • 『鼻』(1916年)

  • 戯作三昧』(1917年)

  • 地獄変』(1918年)

  • 『藪の中』(1922年)

  • 『河童』(1927年)

  • 『歯車』(1927年)

 著者・主な作品  出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

 

(年代順の全集です。)


芥川龍之介大全

(あいうえお順の全集です。)


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