あらすじ
省エネがモットーの高校1年の奉太郎は、海外放浪中の姉貴の指示で古典部に入部する。いくつかの不思議な出来事を解明した奉太郎は、異常に好奇心の強い古典部長千反田えるに頼まれ、33年前の彼女の叔父が神山高校を退学する原因となった事件の真相を解明していく。
目次
- 一 ベナレスからの手紙
- 二 伝統ある古典部の再生
- 三 名誉ある古典部の活動
- 四 事情ある古典部の末裔
- 五 由緒ある古典部の封印
- 六 栄光ある古典部の昔日
- 七 歴史ある古典部の真実
- 八 未来ある古典部の日々
- 九 サラエヴォへの手紙
- あとがき
感想
普通の高校生が身の回りに起きた不思議な事件の謎を解き明かすシリーズの第一作です。
学園ミステリーというのでしょうか。この作品を手始めに、この<古典部>シリーズや同じ著者の<小市民>シリーズ、初野晴の<ハルチカ>シリーズにハマりました。
それぞれ特色があり、氷菓シリーズは男子高校生が主人公で少し理屈っぽいが謎解きは本格派、小市民シリーズは目立たない小市民を心がける高校生カップルが主人公で、題名はスウィートですが、ビターなほろ苦さもある作品、ハルチカシリーズは女子高生が主人公で青春・ラブコミの雰囲気とそれだけではない感動がある作品で、それぞれ甲乙つけがたいシリーズです。
本書は私が学園ミステリーにハマるきっかけとなった作品。冒頭の教室の鍵の謎、図書室で奇妙な借り方をされる本の謎、古典部の文集の行方、という比較的軽い事件を解き明かした後、古典部文集に書かれていた、えるの叔父が退学になった33年前の事件の謎に迫ります。
関谷先輩が去ってからもう、一年になる。この一年で、先輩は英雄から伝説になった。文化祭は今年も五日間盛大に行われる。しかし、伝説に沸く校舎の片隅で、私は思うのだ。例えば十年後、誰があの静かな闘士、優しい英雄のことを憶えているだろうか。最後の日、先輩が命名していったこの『氷菓』は残っているのだろうか。(作品より引用。以下同じ)
古典部のメンバーが集まり、それぞれの調べた資料と仮説を議論する場面は、過去の事件が次第に明らかになっていく高揚感があり、好きな場面です。
「手順についてですが、資料の配布と報告、次にそれについての質問、次に報告者の仮説、次に仮説の検討という形にしたいと思います。報告の間は質問などは禁止します。……(略)
事件が起きたのが1960年代の学園紛争の頃で、私には比較的近い世代なので、当時のアジビラの文面はとても懐かしかった。そして今の若い人たちとは全く異なる時代だったのだと改めて感慨も湧いてきました。
"昨年の六月斗争を例に引いても、古典部長関谷純君の英雄的な指導に支えられた我々の果敢なる実行主義によって、算を乱し色を失った権力主義者どもの無様な姿は記憶に新しいところであろう。"
そして、
結んで得られる推定は?三十三年前になにがあった?俺は考え……。そして、一つの結論を得た
事件の謎はいったん解明したかに見えますが、真相は…
少し悲しい話かな。幼い千反田が何故泣いたのかも判明します。ただ、幼い子供を怖がらせ、泣かせるほどの内容だったのかなという疑問は残りますが。
この作品は主人公の語る内容や主人公と親友里志のセリフや内容が、高校生とは思えないほど妙に老成して大人すぎるので、最初は違和感がありましたが、慣れれば自然に入ってきます。大人の視点で高校生の体を借りて語っている感じでしょうか。
セリフだけでなく行動も落ち着いた大人で、変にギラギラしていないので、むしろ落ち着いてストーリーに入ることができる感じです。
主人公折木奉太郎、親友福部里志、地域の名家千反田える、里志に片思いの井原摩耶花というキャラクターもなかなか味があります。
キャラクターは次巻以降増えていくので、それも楽しみです。
高校ミステリーというと、抵抗を示される方がいるかも知れませんが、実は昔若かった大人向けの作品なので、十分楽しめます。
軽い感じですが実は内容が濃いミステリー。前に述べた3つのシリーズを含めて、おすすめの作品です。
この作品をおすすめしたい人
- あなどれない学園ミステリーを読みたい人
- 謎解きが好きな人、解きほぐされていく快感を味わいたい人
- 殺人のない推理小説が好きな人
- 軽い感じだが実は内容が濃いミステリーを読みたい人
- 米澤穂信の作品が好きな人
著者について
米澤 穂信(よねざわ ほのぶ、1978年 - )は、日本の小説家、推理作家。岐阜県出身。岐阜県立斐太高等学校、金沢大学文学部卒業。男性。
文学賞受賞歴
- 2001年 - 『氷菓』第5回角川学園小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)奨励賞
- 2011年 - 『折れた竜骨』第64回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)
- 2014年 - 『満願』第27回山本周五郎賞
このミステリーがすごい!
- 2005年 - 『さよなら妖精』20位
- 2006年 - 『犬はどこだ』8位
- 2007年 - 『夏期限定トロピカルパフェ事件』10位、『ボトルネック』15位
- 2008年 - 『インシテミル』10位
- 2010年 - 『追想五断章』4位、『秋期限定栗きんとん事件』10位、『儚い羊たちの祝宴』17位
- 2012年 - 『折れた竜骨』2位
- 2014年 - 『リカーシブル』7位
- 2015年 - 『満願』1位[17]
- 2016年 - 『王とサーカス』1位
- 2017年 - 『真実の10メートル手前』3位
主な作品
- <古典部>シリーズ
「氷菓」(2001年11月 角川スニーカー文庫 / 2006年 角川文庫)
「愚者のエンドロール」(2002年8月 角川スニーカー文庫 / 2007年 角川文庫)
「クドリャフカの順番」(2005年6月 角川書店 / 2008年5月 角川文庫)
「遠まわりする雛」(2007年10月 角川書店 / 2010年7月 角川文庫)
「ふたりの距離の概算」(2010年6月 角川書店 / 2012年6月 角川文庫)
「いまさら翼といわれても」(2016年11月 角川書店 / 2019年6月 角川文庫)
- <小市民>シリーズ
「春期限定いちごタルト事件」(2004年12月 創元推理文庫)
「夏期限定トロピカルパフェ事件」(2006年4月 創元推理文庫)
「秋期限定栗きんとん事件」(2009年3月 創元推理文庫【上・下】)
「巴里マカロンの謎」(2020年1月 創元推理文庫)
- 『さよなら妖精』(2004年2月 東京創元社ミステリ・フロンティア / 2006年6月 創元推理文庫 )
- 『折れた竜骨』(2010年11月 東京創元社ミステリ・フロンティア / 2013年7月 創元推理文庫【上・下】)
- 『満願』(2014年3月 新潮社 / 2017年7月 新潮文庫))
- 『王とサーカス』(2015年7月 東京創元社 / 2018年8月 創元推理文庫)
- 『真実の10メートル手前』(2015年12月 東京創元社 / 2018年3月 創元推理文庫)
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