あらすじ
貸し長屋を多く持つ資産家山村家で下女奉公をする娘お峰は、やっと暇をもらい育ての親の叔父の見舞いに訪れるが、生活に困窮する叔父から大晦日までに借金返済で金が必要と聞き自分の給金の前借りをする胸決意する。期限の大晦日、前もって話をしていたにも関わらず、御新造(山村家妻)から断られ、追い詰められたお峰は引き出しにしまわれていたお金に手を付けてしまうが…
目次
上、下
感想
とうとう樋口一葉。読む日が来るとは思わなかった。
明治の文学全集を買ったので、樋口一葉を読んでみました。お札にまでなった人。たけくらべ、にごりえが著名ですが、時代順でこの作品から読んでいます。
やはり、最初はさずがに文章が読みにくいのですが、すぐに慣れました。文章の長いこと!最初の出だしの文章を数えたら句点(。)まで1,000字でした。落語や講談の感じですな。でも慣れると不思議に読み進める。主語が誰かわかりにくい問題はありますが。
読み進む気になったのは、冒頭から明治時代の下層(庶民と言ったほうがいいかもしれない)の女性の貧しい生活が目に見えるように感じられたから。若い女性作者なので、当時の同世代の目線で書かれていて、実感がこもっているのでしょう。
井戸は車にて綱の長さ十二尋、勝手は北向きにて師走の空のから風ひゆう〳〵と吹ぬきの寒さ、おゝ堪えがたと竈の前に火なぶりの一分は一時にのびて、割木ほどの事も大臺にして叱りとばさるゝ婢女の身つらや、(略)(作品より引用。以下同じ)
明治時代の作家だけでなく、大正、昭和(初期かな)までの作家の作品を読むと、作中人物が働かないのに放蕩とか怠惰な暮らしができていて、当時の言葉で「高等遊民」で、働かずに暮らしていけるいられるのが今より貧富の差が大きい階級社会だったからなのかと不思議に感じていました。もちろんプロレタリア文学は違いますが。
だから、女流作家で市井の女性の暮らしを描いた樋口一葉の作品が新鮮に感じるのでしょう。
全般を通じて、大晦日を前にした、明治時代の市井の人々の暮らしがつかめ、とても味わいがありました。流石に今の作品ほどスムーズに読めませんが、短い作品なのでさほど苦労なく読めした。
ストーリーは単純で、お峰が病気の叔父を助けるため、やむを得ず奉公先の金を盗むが、故意か偶然か、山村家放蕩息子の石之助が同じ場所から金を持ち出していたため、お峰の行為は露見しなかったというもの。
石之助がお峰の盗みを見ていたことは、暗示されています。
かねて見置きし硯の引出しより、束のうちを唯二枚、つかみし後は夢とも現とも知らず、三之助に渡して歸したる始終を、見し人なしと思へるは愚かや。
それを見て、お峰をかばってくれたのか、単に金の在り処を知ったので、持ち出しただけなのかは、書いてありませんが。前者なのででしょうね。
これは誰でも気になるようで、ネットでもこの2つの説が書いてありましたが、人情噺としては石之助の善意の方を取りたいです。後者だと、たまたま助かったということで面白くないですから。
樋口一葉はか弱い女性と思ってしまいますが、17歳で一家の借金を背負い、駄菓子屋をやってみたり、相場師を志したり、新聞記者と恋に陥ったりと、行動力のある人だったようです。先入観はだめですね。
さて、樋口一葉も読書の対象になることがようやくわかったので、「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」などの作品も読んでみようかな。
一度読んでみることをおすすめします。思うほど敷居は高くありませんので。
この作品をおすすめする人
- 純文学に興味がある人、好きな人
- 明治の庶民、女性の生活ぶりを感じたい人
- 明治時代の代表的女流文学者に興味がある人
著者について
樋口 一葉(ひぐち いちよう、1872年5月2日(明治5年3月25日)- 1896年(明治29年)11月23日)は、日本の小説家。東京生まれ。戸籍名は「奈津」。
中島歌子に歌、古典を学び、半井桃水に小説を学ぶ。生活に苦しみながら、「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」といった秀作を発表、文壇から絶賛される。わずか1年半でこれらの作品を送ったが、24歳6ヶ月で肺結核により死去。没後に発表された『一葉日記』も高い評価を受けている。
主な作品(代表作)
『大つごもり』(1894年)
『ゆく雲』(1895年)
『にごりえ』(1895年)
『十三夜』(1895年)
『たけくらべ』(1896年)
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