keepr’s diary(本&モノ&くらし)

ネット、読書、音楽、散歩が趣味のおじさんです。趣味、商品、暮らしの疑問、感想を思いつくまま綴ります。

【本の感想】浅田次郎「ラブレター」(「鉄道員(ぽっぽや)」より)


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この作品について

浅田次郎の作品「鉄道員(ぽっぽや)」の中の一編

鉄道員」の収録作品は次のとおりです。

 あらすじ

新宿歌舞伎町の裏ビデオショップの店長高野は、出所後突然警察から、偽装結婚した中国女性李白蘭の遺体引き取りを求められる。偽装結婚を手配した組長の指示で、若い衆のサトシとともに千葉の千倉に向かうが、会ったこともない妻からの手紙を読み、彼女の不幸な境遇と末路に、心を乱してしまう…

感想(ネタバレ)

浅田次郎氏の著作の中で好きな作品の一つです。

かなり昔ですが、中井貴一主演で映画化もされました。

こちら ↓

 

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主人公の高野吾郎は、歌舞伎町で違法ビデオショップ店長を任されていて、裏社会にかかわり、つい最近も刑務所から出てきたばかりの40歳近い人間。 

自分とはかけ離れた境遇で、その生活に共感することはないが、読み進むうちにい浅田ワールドに引き込まれ、不覚にも涙ぐんでしまう。少し苦い涙。そうした作品です。

 

今はどうなのかわかりませんが、90年代はたしかに風俗店で中国人女性が働かされていました。裏には反社会的勢力がいて、入国管理をすり抜けるため偽装結婚も行われていた。

この作品ではそこまで書かれていませんが、偽装結婚すると出入国管理で強制送還されることもなくなるので、ある意味死ぬまで働かされ、組織に甘い蜜を吸われるという怖い悲惨な話。

 

そんな逃げ場のない外国人女性は、客から肝炎などの病気をうつされ(もちろん、エイズ性病などほかの病気も、今ではコロナも)、肝硬変で亡くなることが多いということ。

ましてやこの作品の女性白蘭は中国に子供もいるという設定。実際にそういう境遇の女性も多かったと思うと悲痛すぎる気がします。

あいつは海も知らない中国の田舎町からやってきて、やくざの間をたらい回しにされて、借金でがんじがらめにされたあげく、とうとう医者にもかからずに死んじまったんだ。変じゃねえか。どこがどうはっきりしてるってんだ。変じゃねえかよ。

吾郎はそうした悲惨な「妻」の宿命は知っていたのでしょうが、「妻」の死で改めてそれを感じたのでしょう。

まして、名前だけの偽装結婚で会ったこともない男に恨みを言うこともなく、ただ、感謝の内容の手紙を書く「妻」。偽装結婚だと承知しつつ、法律違反ではないので、自分や組織を罰することもない警察、日本の社会。そうした事実に対して、吾郎は、サトシが「やべえよ、いったいどうしちゃったんだよ」というように、おかしくなってしまった。

海の音きこえます。雨ふってます。とても暗いです。寝たまま、手もかたっぽ、きたない字でごめんなさい。吾郎さんのこと、大好きです。世界中で一番。誰よりも吾郎さんのこと好きです。痛いの苦しいのこわいのではなく、吾郎さんのこと考えて泣いてます。(中略)悲しいのつらいのではなく、ありがとうで涙が出ます。

 

社会の悪に対して恨みを言うこともなくただ受け入れて、死も受け入れて逝った「妻」白蘭。それが悲しい。

 

でも、この作品の救いは、吾郎が白蘭の骨を自分の故郷の家の墓に入れようと決心するラストシーン。これがあるから、読後感がよく感じられるのでしょうね。

暗い夜の窓に、コンビナートの灯が近付いてきた。国へ帰ろう。ついに会うことのなかった弟の嫁を、兄はきっとやさしく迎えてくれるだろう。「帰ろうな、パイラン。みんな待ってるから」吾郎は使い古した口紅で、骨箱に「高野白蘭」と書いた。(作品より引用)

 

「見知らぬ妻へ」との違い

浅田次郎の作品で似たような内容の「見知らぬ妻へ」(短編集「見知らぬ妻へ」より)があります。正直、この感想を書くため読み返してみるまでは、どちらがどちらの内容があいまいでした。

改めて、読み返してみたところ、違いがはっきりしました。

どちらも内容は、

  • 主人公は歌舞伎町で自堕落な生活を送る中年男
  • 偽装欠航で中国人女性と結婚
  • 中国人女性と悲しい別れ

という点でよく似ています。

しかし自分の感じでは「見知らぬ妻へ」の方が内容が深刻。それは、

  • 主人公が離婚歴があり、娘は主人公を慕っていること。
  • 偽装結婚を勧めた元警察官の手配師が殺されるなど、裏社会の暴力的な場面があること
  • 実際に同居し恋愛感情を持ち、生き別れること
  • 「妻」の今後の暗い運命
  • ラストが、ラブレターは少しほっこりするのに比べ、「見知らぬ妻へ」はホームレスに落ちていくような暗い暗示があること。

 

  見知らぬ妻へ ラブレター
主人公 花田章 高野吾郎
職業 歌舞伎町の客引き 歌舞伎町のアダルトビデオ店店長
年齢 46歳 30代後半
家族 独身・離婚歴あり・子どもあり 独身未婚
「妻」の
名前
李玲明
リイ・リン・ミン
康白蘭
カン・パイ・ラン
「妻」との
関係
短期間同居し恋愛感情あり 会ったことなし
「妻」との
別れ
別の街に連れ去られる 肝硬変で死亡
ラスト ホームレスに転落を暗示 骨を主人公の故郷の墓に納めようと思う

 

だから、ラブレターの方が純粋に感動、落涙する。

いわば純粋な大人の童話。読後感もよく余韻に浸れます。

どちらもほろ苦いのですが、「見知らぬ妻へ」は少し現実の冷酷さが出ていて純粋に涙しずらいところがあります。少し苦い、ざらつく読後感です。

 

ちなみに、浅田次郎の作品は、童話系と現実よりの作品がありますね。

作品でいうと、短編集「鉄道員」はこの作品や「鉄道員」「オリヲン座からの招待状」のような大人の童話系の作品が多く、短編集「見知らぬ妻へ」の方は「スターダスト・レビュー」のような少し現実よりの作品が多い気がします。暴力が出てくる、出てこないの違いもあるかもしれません。

 

以上のような理由で、このラブレターは、社会の裏面を扱っていながら奇跡的にとても読後感がよい作品です。

おすすめします。

この作品をおすすめする人

  • 作品を読んで感動したい人。
  • 小説の世界に入って涙を流したい人
  • 暗さの中にも希望を見出したい人。
  •  浅田次郎の大人の童話系の作品が好きな人

 


鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

 

著者について

浅田 次郎(あさだ じろう、1951年(昭和26年)12月13日 - 、本名・岩戸康次郎)は、日本の小説家。血液型はA型。日本ペンクラブ元会長。中央大学杉並高等学校卒業。

陸上自衛隊に入隊、除隊後はアパレル業界など様々な職につきながら投稿生活を続け、1991年、『とられてたまるか!』でデビュー。悪漢小説作品を経て、『地下鉄に乗って』で吉川英治文学新人賞、『鉄道員』で直木賞を受賞。時代小説の他に『蒼穹の昴』、『中原の虹』などの清朝末期の歴史小説も含め、映画化、テレビ化された作品も多い。2011年 - 2017年日本ペンクラブ会長。2013年現在、直木賞柴田錬三郎賞山本周五郎賞選考委員。

 

受賞歴

主な作品

長編小説

短編集

  • 鉄道員(ぽっぽや)』(1997年4月、集英社)のち文庫
  • 月のしずく』(1997年10月、文藝春秋)のち文庫
  • 『見知らぬ妻へ』(1998年5月、光文社)のち文庫
  • 『霞町物語』(1998年8月、講談社)のち文庫
  • 『薔薇盗人』(2000年8月、新潮社)のち文庫
  • 『姫椿』(2001年1月、文藝春秋)のち文庫
  • 『歩兵の本領』(2001年、講談社)のち文庫
  • 『沙高樓綺譚』(2002年、徳間書店)のち文春文庫
  • 『五郎治殿御始末』(2003年、中央公論新社)のち文庫、新潮文庫
  • 『霧笛荘夜話』(2004年、角川書店)のち文庫
  • 『お腹召しませ』(2006年、中央公論新社)のち文庫
  • 『あやしうらめしあなかなし』(2006年、双葉社)のち文庫
  • 『月島慕情』(2007年、文藝春秋)のち文庫
  • 『夕映え天使』(2008年12月、新潮社) のち文庫
  • 『草原からの使者―沙高樓綺譚』(2012年 徳間文庫)のち文春文庫
  • 『獅子吼』文藝春秋 2016
  • 『帰郷』集英社 2016 のち文庫

ほか

以上出典:フリー百科事典『ウイキペディア』

 

keepr.hatenablog.com

 

⇩「ラブレター」の収録されている短編集「鉄道員


鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

 

⇩「見知らぬ妻へ」が収録されています


見知らぬ妻へ (光文社文庫)

 

⇩以下、感動した浅田次郎の短編集。こちらもおすすめです。


月のしずく (文春文庫)

 


姫椿 (文春文庫)

 


霞町物語(『霞町物語』講談社文庫所収)

 

中井貴一主演の映画「ラブレター」


あの頃映画 松竹DVDコレクション ラブ・レター

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