keepr’s diary(本&モノ&くらし)

ネット、読書、音楽、散歩、最近はイラストが趣味のおじさんです。趣味、商品、暮らしの疑問、感想を思いつくまま綴ります。

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【本の感想】森 鷗外「雁」


雁 (新潮文庫)

あらすじ

明治13年頃、旦那に囲われている若い妾お玉と医学生岡田の淡い恋の顛末を、医学生の友人「私」の視点から描く小説

目次

壱~弐拾肆

感想

この作品、森鴎外の代表作の一つとは知っていたが、今まで読んだ森鴎外の作風からもっと渋い物語だと勝手に想像していた。

読んでみて、文体もストーリーも意外に馴染みやすく、楽しく読ませていただいた。

 

ストーリー

下宿の学生から一目置かれており、容姿才能に優れた医学生の岡田は、大学への行き帰りに通る無縁坂の途中の静かで清潔な家の窓から、若い綺麗な女お玉を目にして、通りかかるたび女の姿を探すようになる。

お玉は芸者と間違えるほどの器量で、かつて下宿の下男から財をなした金貸し末造が、父娘とも世話をしている。

二十歳で妾になったお玉は世間擦れしておらず、妾とは思えないほど従順で素直だが、時が経つにつれて次第に自我に芽生える。お玉も無縁坂を通る岡田を意識し始める。

通る度に顔を見合せて、その間々にはこんな事を思っているうちに、岡田は次第に「窓の女」に親しくなって、二週間も立った頃であったか、或る夕方例の窓の前を通る時、無意識に帽を脱いで礼をした。その時微白い女の顔がさっと赤く染まって、寂しい微笑の顔が華やかな笑顔になった。(本作品より引用。以下同じ)

 

お玉の家の窓に掛けられた鳥籠の小鳥が蛇に襲われているのを見た岡田は蛇を始末し助け立ち去る。

ある日末造が仕事で家に訪れないことが分かるとお玉は普段より丹念に髪を結い、化粧をして岡田が通るのを待つ…

 

淡い純愛と切ない偶然

一番の印象はお玉の美しさと心持ち。その描写が簡潔でいて味わい深い。妾なのに擦れていなくて、若くいい女で惚れ惚れしてしまう。森鴎外の作品で憧れる女性が出てくるとは思わなかった。

下宿の食事で「私」の嫌いな鯖の味噌煮が出て来たことが発端で、岡田とお玉は親しく言葉を交わす、さらに言えば関係を持つということが絶たれる訳だが、仮にそれが果たせたとしても、岡田は翌日には日本を発つので、その日限りで終わってしまう運命だった。

むしろ、余計に未練が募る出来事が起こらなくて良かったとも言え、どちらにしても儚い恋は終わり、なんとも淡く切ない。

鯖の味噌煮からの展開は、風が吹けば桶屋が儲かるを連想したが、不忍池で石を投げたら偶然雁に当たって、そのせいでお玉は通り過ぎる岡田と一人で会うことができない。

僕は石原の目を掠めるように、女の顔と岡田の顔とを見較べた。いつも薄紅に匀っている岡田の顔は、確に一入赤く染まった。そして彼は偶然帽を動かすらしく粧って、帽の庇に手を掛けた。女の顔は石のように凝っていた。そして美しく睜った目の底には、無限の残惜しさが含まれているようであった。

 

友人と三人連れの岡田を見送るお玉の描写がとても切ない。状況は違うけれど、自分にもそんな出来事があったなと、感情にひたってしまう。

読後感は切ないが爽やかだ。物語は末造と妻、お玉の部分が多く、岡田とお玉の関係は記述が少ない。それだけにより儚い感じがするのかも知れない。

鴎外と聞くと敬遠する人は多いが、この作品は意外と読みやすいので、一度読んでみることをおすすめしたい。

 

この作品をおすすめしたい人

  • 読みやすい古典文学を読みたい人
  • 明治初期の風俗、恋愛に興味がある人
  • 森鴎外を読んでみたい人

著者について

森 鷗外(もり おうがい、1862年2月17日(文久2年1月19日) - 1922年(大正11年)7月9日)は、日本の明治・大正期の小説家、評論家、翻訳家、教育者、陸軍軍医(軍医総監=陸軍中将相当)、官僚(高等官一等)。位階勲等は従二位・勲一等・功三級、医学博士、文学博士。本名は森 林太郎(もり りんたろう)。

主な作品

舞姫』(1890年)
うたかたの記』(1890年)
ヰタ・セクスアリス』(1909年)
『青年』(1910年)
『雁』(1911年)
阿部一族』(1913年)
山椒大夫』(1915年)
高瀬舟』(1916年)
渋江抽斎』(1916年)

※ 著者、主な著書についてはフリーの百科事典『ウィキペディアwikipedia)』 

森鷗外 - Wikipedia を参考にした。

 

【コラム】イヤな時代だな…陽射しの中で

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暑い、あつい。なぜ夏は急に来るのだろう。

とはいえ、今朝起きたら昨日ほどは湿気がないようで、意外に扇風機の風が心地良く、このまま永遠に眠ってもいいなと三度寝して、起きたら9時半だった。

 

外に出ると日差しは強烈で、参議院選地方区の掲示板を横目に見る。衆院選小選挙区はえらく異なり、神奈川県で4名という少なさ。

三原じゅん子はアイドル時代から好きではないので、入れることはないのだが…と思いつつ、東京で乙武氏が立候補していて苦戦が伝えられていることを思い出した。

 

不倫騒動でいろいろ批判されたこともあるのだろうがと考えて、あの批判ってどうだったんだろうかと思った。先天性四肢欠損の彼の心情は恐らく本人以外にはわからないのだろうが、自分に置きかえて想像することもせず、ただ世間一般の常識を当てはめて非難することがいかに愚かなことだったかと。

四肢が不自由な人の性など「五体満足」な人にはわからないのに。

 

ジェンダー論、人種論が幅を利かすリベラルな「多様性」。

今朝の朝日新聞のアンケートでは、自民党以外はほぼ同性婚に賛成なんだとか。

そんな誰得の理想主義より、想像力で他人を理解する、身近な思い遣りのほうがよっぽど大事ではないか。

 

「イヤな時代だな…」。やはり蒸し暑いと思いながら、炎天の中をトボトボと歩く老人であった。

 

 

【本の感想】初野 晴「ひとり吹奏楽部 ハルチカ番外編」


ひとり吹奏楽部 ハルチカ番外篇 「ハルチカ」シリーズ (角川文庫)

あらすじ

ハルチカシリーズの番外編。本編の脇役を主人公にした短編集。捨て犬の引取りをお願いに行ったカイユと後藤が見つけた異変「ポチ犯科帳」など5編を収録

目次

  • ポチ犯科帳 ─檜山界雄×後藤朱里─ 
  • 風変わりな再会の集い ─芹澤直子×片桐圭介─ 
  • 掌編 穂村千夏は戯曲の没ネタを回収する 
  • 巡るピクトグラム ─マレン・セイ×名越俊也─ 
  • ひとり吹奏楽部 ─成島美代子×???─

感想

 

keepr.hatenablog.com

 

ハルチカシリーズを再読したら面白かったので、以前買おうか迷った本作を読んでみた。良い意味で裏切られた。

基本的に主人公2人は登場せず、本編で脇役の吹奏楽部メンバーが各編の主人公。少し地味ではないかと心配したが、脇役たちが実に生き生きと動いている。各編の内容は上手く関連付けられ、一つの長編を読んでいる気さえした。

 

各編について(ネタバレ)

ポチ犯科帳 ─檜山界雄×後藤朱里─ 

吹奏楽部、高1後藤の弟が拾った捨て犬。後藤から頼まれたカイユは、顔なじみの犬好きおばさんのところに引き取りを頼みに行くが、頻繁に吠える古株の愛犬の様子からある異変に気がつく。

いつも騒がしい後藤だが、実はコミュニケーションが上手く、とても賢い。カイユとともに脱帽。

風変わりな再会の集い ─芹澤直子×片桐圭介─ 

ふと立ち寄った駄菓子店で店番をする羽目になった芹澤。偶然店を訪れた片桐元部長は音楽家志望の妹の進路について芹澤に相談する。

普段仲の悪い二人が、時間つぶしに話すうちに打ち解ける様子が、居酒屋でのおっさん同士の会話のようで面白い。片桐は妹と吹奏楽部の今後を芹澤に託して話は終わる。もうあまり会うこともない片桐と芹澤だが、心が通い合って良かった。

掌編 穂村千夏は戯曲の没ネタを回収する 

「退出ゲーム」の没ネタの話題

巡るピクトグラム ─マレン・セイ×名越俊也─ 

看板女優の代りにバイトに付き合えと演劇部長名越から頼まれたマレン。向かった先は、小学生の逆上がり教室。名越が子どもたちから金をまきあげていると聞いたマレンは名越を問い詰めるが、意外な事実を明かされる。

ベルマークの話がとても具体的で興味深い。確かに、整理する作業は膨大なものになるだろう。子供を使いベルマークを上手く整理しようとした天才中学生と、オチが面白い。

ベルマークのことは忘れていたけど、今もあったのだな。懐かしいのと今も続いていることに感動。ベルマーク教育助成財団


ひとり吹奏楽部 ─成島美代子×???─

部員の指導に悩んでいた吹奏楽部副部長の成島は、過去に廃部になった頃のメンバーが書き残した言葉に共感し、連絡を取ろうとする。事情を知る教頭にも連絡先はわからないが、そのメンバーから預けられた多くの本を教頭から渡される。そして…

外は暗く、敷地内の常夜灯の丸い輪が正門までぼんやりとつづいている。正門の傍に自転車、そして、たたずむ四人のシルエットが浮かび上がっていた。 
教頭先生は目を眇めて口を開く。 
「あれはきみを待っているのか?」
 〈ファイター〉の穂村。 
〈シンカー〉の上条。
〈ビリーバー〉のカイユ。
 〈コネクター〉のマレン。
 こくりとうなずく〈リアリスト〉の成島は、笑顔を浮かべて、誇らしげにこたえた。
 「……わたしにとって……最強の四人です……」
(本作品より引用)

このラストはずるい。「ひとり吹奏楽部」という表題が誤解を招くが、この作品は間違いなく吹奏楽部団結の物語だ。

本作では新入生の大量入部が暗示されるが、草壁先生の去就も暗示されている。でも来年の普門館までは指導して欲しい。

脇役が活き活き、各編の繋がりが絶妙

各編の内容が巧妙に関連していて、読んでいて、なるほどそういうことか、とうなずいてしまう。後藤の弟、片桐元部長の妹、2006年当時のメンバー。他にもあったかな。

謎解きはメインでなくスパイス。賑やかなハルチカが出て来ない(草壁先生さえも)で、普段の脇役たちが生き生きと描かれるので、これはこれでありというか、むしろこちらのほうがしっくりくるかも、と思ってしまった。

なかなか出ない新作…

米澤穂信の「古典部シリーズ」や「小市民シリーズ」もそうなのだが、学園ミステリーでは主人公が先輩、後輩に囲まれる高校2年の頃が描きやすいようだ。

高2後半から高3になると大人びて来て、米澤さんの作品では内容もシリアスになっている。受験もあるのであまり探偵ごっこがやりにくくなって描きにくくなるのだろうか、この「ハルチカシリーズ」を含めて、なかなか次の作品が登場しない。

ハルチカシリーズでは、個人的には、前作「惑星カロン」がやや物足りなかったが、この作品を読んで次の作品が待ち遠しくなった。

 

ハルチカシリーズのファンで、まだ本作を読んでいない人にはぜひ読んでほしい。「ひとり吹奏楽部」というタイトルに騙されないように。

 

この作品をおすすめしたい人

  • 明るく、ほろ苦い学園ミステリーを読みたい人
  • 本格的な内容の学園ミステリーを読みたい人
  • 青春を今一度感じたい人
  • ハルチカシリーズのファンの人

著者について

初野 晴(はつの せい、1973年 -)は、日本の小説家、推理作家。静岡県清水市(現・静岡市清水区)出身。法政大学工学部卒業。男性。

主な作品

ハルチカ〉シリーズ

その他の作品

※ 著者について 主な作品はフリーの百科事典Wikipedia 初野晴 - Wikipedia を参考にした

 

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